096 捜索依頼②
DV夫から逃げ出した奥さんの名前は藤原マリさん。おそらく現在は旧姓の田中マリを名乗っていると予想される(もしかしたら完全な偽名を使っている可能性もあるけど)。
いずれにしても透視の魔女であるユカリさんの手にかかれば、あっという間に見つけられるはず…。
…て思ってたら、あっさりと何の問題も無く発見できたよ。さすがはユカリさんです。
「こんにちは。藤原マリさんですよね?」
いきなり本名で呼びかけられたことで、恐怖の色を顔に浮かべるマリさん。20代半ばくらいの女性で、髪の長さは肩くらいまで。地味で大人しめな雰囲気の人だった。
マリさんが現在アルバイトとして勤めている会社の建物から夕方の退勤時間になって出てきたところに声をかけたのだ。なお、ここにいるのは美女先輩と僕の二人だけだよ。
「あなたがたは誰なんですか?ま、まさか夫から頼まれて私を探しに来たのですか?」
美女先輩が柔らかい笑顔を浮かべ、マリさんを安心させるように言った。
「依頼を受けた者であることは確かですが、私たちはあなたの味方ですよ。安心してください」
「え?え?どういうこと?」
「あなたの夫である藤原氏から依頼はされました。しかし、DV野郎であることが分かっている以上、あなたの情報を渡して『はい、終わり』ってことにはしませんよ。もしも離婚されたいのなら、そうできるように私たちで手助けしたいと思っています」
マリさんは目を見開いて驚いているようだ。見知らぬ人間をいきなり信用しろってのが無理な話なんだけど、僕たちを信用してもらえないと助けることもできない。はたしてどうするだろうね?てか、おそらくここが人生のターニングポイントだよ。
内心の葛藤が窺えるくらいの時間が経過したけど、ようやく決心がついたようだ。
「お願いします。助けてください。できればあの男とは離婚して、自分の人生をやり直したいと思っています。でも離婚させてもらえず、暴力は酷くなるばかり…。こうやって逃げるしかなかったんです」
僕は美女先輩をちらっと見た。どうやら嘘は言ってないみたいだね。
「あの男があなたに暴力をふるっているところを動画で撮影して、傷害罪で警察に告発しましょう。家裁の離婚調停では難しいでしょうから、裁判で離婚を認めさせるのが一番良いと思います。そのためにもあなたにはいったんあの男のもとへ戻ってもらわなければなりません」
「ですが隠しカメラを仕掛けてもボイスレコーダーやスマホで録音しようとしても、必ず見つかってしまうんです。そして報復として折檻されます。どうやってDVの証拠を集めるのですか?」
「まぁ私たちにお任せください。決して悪いようには致しませんから」
このあと近くのファミレスで一緒に夕食を摂りながら、細かい打ち合わせを行った。あの男を罠に嵌めるための悪だくみは万全だ。…って悪だくみじゃなくて、正義の鉄槌です。




