009 休日
事件があったのは週末の金曜日だったので、土日は連休になる。担当している案件がデスマーチになっていない時期は普通に休めるよ。
僕の住んでいるアパートの部屋は、ワンルームの風呂トイレ別で月6万円という、割と安いところだ。その部屋の中でぼーっとテレビを見ていたら、ワイドショー的な番組で事件の概要が解説されていた。
それによると…。
誘拐犯の身元は、ボスが戸田カズコ(46歳)、手下の5人の名前も出ていたけど興味が無い。
銀行強盗のA・B・Cだけど、Aは警察にも名乗っていたけど鈴木マコト(42歳)という名前で、メグミお姉さんの父親だね。Bは未成年者ということで名前は公表されなかったけど、15歳の中学生だったみたい。Cも未成年で19歳、BとCはメグミお姉さんの弟ってことだね。
世論もテレビのコメンテーターたちも鈴木家に同情的で、減刑を求める嘆願書を集めようって雰囲気になっていた。
問題はBの持つ拳銃で腹を撃たれた男性がいたことなんだけど、警察の調べによるとこの被害男性はろくでもないやつだったらしい。所持品から覚せい剤が出てきて、尿検査でも陽性…つまり覚せい剤所持及び行使の現行犯だったよ。
しかも、甘いマスクで複数の女性を誑かし、風俗店で働かせて金を貢がせているという女の敵だった。被害女性が一人も被害届けを出さないため、警察も手を出せなかったみたいだけどね。
今回は薬による万能感なのか、警察の介入を忌避したのか、はたまた活躍することで女性に惚れさせて、金づるを増やすためだったのか、そのへんの動機はよく分からないけど、小柄で勝てそうなBに襲い掛かったというわけらしい。
銃で撃たれた被害者なのに、すっかり悪者になっているよ。笑える。
ここで僕の自宅の固定電話の呼び出し音が鳴った。ちなみに、メグミお姉さんに貸していたスマホは、まだ手元に戻ってきていない。お姉さんに会えていないからね。
あ、スマホがあるのに固定電話も契約しているのは、ネット接続のためだよ。光回線じゃないと速度がなぁ。
電話に出ると、相手は美女先輩だった。
『もしもし尾錠と申します。津慈さんのお宅でしょうか?』
「あ、美女先輩、ツバサです。どうしたの?」
『つつちゃん、良かった。あのね、今夜って時間空いてる?一緒に食事でもどうかな?って…』
おぉ、美人と食事デートですね。…って、多分、色々聞かれるんだろうなぁ。
「もちろん大丈夫だよ。あ、ただし僕の秘密を根掘り葉掘り聞かないこと」
『えええ、それが目的なのに…。まぁ良いわ。それじゃ時間と場所は…』
こうして今夜の予定が決まった。女子会だね、二人っきりだけど…。




