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ひっそりと生きたい最強女子の転生譚  作者: 双月 仁介
第2.5章 閑話集
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086 加藤ハヤト-2①

 俺が九条家の屋敷で働き始めてからもう4年になる。

 大学を卒業した後、すぐに『忍び』としての技量を認められてこの屋敷に就職できたのは幸運だった。ちなみに親父は俺の大学進学を歓迎していなかったようだけど、家出をチラつかせて認めさせた。後悔はしていない。

 なにしろ前世では通うことができなかった大学だからね。大学で勉強したことは執事としての仕事にも役立っているはずだ。そう、執事には教養も必要なのだよ。

 なお、俺の外見的特徴を一言で述べるならば?

 『忍び』としての鋭い目つきを眼鏡の奥に隠している俺は、鏡を見ながらいつも感じている…見た目だけなら完全にインテリヤクザだと(笑)

 女性からはイケメンという評価を受けることもあるけどね。


 俺の表の仕事は先に述べた通り、序列は低いものの執事であり、通常は屋敷内の雑事を担当している。

 しかし、裏の仕事(つまり『忍び』としての仕事)は『四番隊』の隊員だ。我が部隊の役割はこの屋敷の主人である『御前(ごぜん)様』の護衛なのだが、俺自身の担当はこの屋敷の防衛任務になっている。

 外敵の侵入を検知し、排除する仕事だ。まぁ侵入者なんて一年間に一人いるかいないかなので、今までに捕縛した不正侵入者は三人程度なんだけど。


 なお『御前(ごぜん)様』のご家族は同居されておらず、屋敷の中には『御前(ごぜん)様』以外には使用人しかいない。

 ところが、今年から孫娘である高月レイコ様を屋敷の中に住まわせ始め、祖父として溺愛しているその様子に驚かされたものだ。最初のほうこそお嬢様に対して冷たい態度で接していた御前様だったが、あるときからその接し方が180度変わったのだ。あまりにも急激な態度の変化に不穏なものを感じたのだが、一使用人である俺がどうこう言うこともできない。

 お嬢様は高校に入学した当初はこの屋敷から通われていたが、学校までの距離が遠く不便なため賃貸マンションでの一人暮らしになった。その際、お嬢様の護衛任務は『五番隊』の担当となったので、俺とお嬢様との接点は無くなった。


 時は流れ、お嬢様が高校二年生のときの正月(つまり三年生に進級する年)、ご一族が一堂に会した食堂でちょっとしたイベントが発生した。そこには執事として俺も(はべ)っていたのだが、なかなか見応(みごた)えのあるイベントだった。

 まさに断罪劇…、お嬢様が三回も命を狙われたということにも驚かされたが、それを身内である従兄姉いとこたちが画策したということにも驚いた。しかし『五番隊』がしっかりとその役割を果たしたということに(別の部隊ではあるけど)誇らしい気持ちになったよ。お嬢様をお(まも)りしてくれてありがとう。


 そしてこの年、新年度(4月)から俺の所属が変わった。『四番隊』から『三番隊』への異動だ。この屋敷に勤め始めてから6年目の出来事になる。

 俺としてはあまり気が進まない仕事だ。なぜならこの『三番隊』は非合法部隊(イリーガル)であり、拉致監禁や暗殺といった法に()れる任務を一手に引き受けている部隊だったからだ(なお、『三番隊』の手に負えない案件の場合は、『一番隊』や『二番隊』が出動することもある)。

 俺が『忍び』の家の出身であることは就職時に把握されていたので、この人事はもともとの予定通りなのかもしれないけどな。


「加藤さん、あなた無限倉庫(インベントリ)を持っているわよね。あぁ、隠さなくても結構よ。私の親友にも保持者がいるから雰囲気や仕草で分かってしまうのよ」

 高校三年生になったお嬢様が夏休みの休暇を利用して屋敷に帰省している際、俺に対しておっしゃられたことだ。

 はっきり言って心臓が止まるほど驚いた。うまく隠していたつもりだったのだが、ちょっとしたことでも無限倉庫(インベントリ)を使っていたからね。さすがに隠し通せなかったか…。

 いや、お嬢様以外の人間にはバレていないから、別に俺の隠蔽技術が劣っているということでもないはずだけどな。

「もちろん秘密にしますよ。ただその技能を使う上で、あなたの持っている考え方を教えてもらいたいの。あなたの正義と言っても良いかな?」

 なかなか難しいことを聞いてくるお嬢様だ。

 『三番隊』隊員としての模範的な返答は何だろう?やはり、与えられた任務に盲目的に従うこと?…いや、そうじゃない!俺の能力は人を守るためのものだ。


「お嬢様、私は私の中の正義に反する仕事であった場合、上からの命令であっても拒否させて頂きます。たとえそれが御前(ごぜん)様やお嬢様の命令であっても…」

 これを聞いたお嬢様の目が細められ、鋭い光を放った。この目には見覚えがある。俺の親父の目と同じで、人を殺したことのある目だ。直接的か間接的かは分からないが、このお嬢様は少なくとも一人以上の死に関わっていると俺の本能が警鐘を鳴らしている。

 俺は背中にじっとりと冷や汗をかきながらお嬢様の返答を待った。

「上の命令に逆らってまで自分の正義を貫くというの?それは反逆の意思ありとみて良いのかしら?」

 俺は覚悟を決めた。これは馘首(くび)になるだけでは済まないかもしれないな。

「私は悪の組織の戦闘員ではありません。三番隊が非合法(イリーガル)な任務を実行する部隊であるのは承知していますが、唯々諾々と命令に従うつもりもありません」

「ふーん、そんなに死にたいの?あなたはうちの全ての戦力を敵に回すかもしれなくてよ?」

 冷たい雰囲気で淡々としゃべるお嬢様の圧力に()し潰されそうだ。本当にこの子は高校生なのか?

「死ぬつもりはありませんし、死にたいわけでもありません。しかし、それでも譲れないものがあるのです。ご理解ください」

 幸い俺は体術には自信がある。魔法を避ける能力もあるし、無限倉庫(インベントリ)もある。タイマンなら誰にも負ける気はしないが、それでもこの状況は死亡フラグを立たせてしまったのかもしれない…。

 転生してから28年、死ぬにはちょっと早いが、そこそこ良い人生だったと言えなくもないな。ただ前世と同じく、結婚できなかったことだけが悔やまれる。できれば結婚はしてみたかったよ。

 なお、周囲にお嬢様の護衛である『五番隊』の人間の気配は無い。どうやら人払いされているようだ。俺が自暴自棄になってお嬢様に危害を加える可能性を考慮していないのだろうか?


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