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ひっそりと生きたい最強女子の転生譚  作者: 双月 仁介
第2.5章 閑話集
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081 九条アスミ①

 私は幼いころからずっと、おじい様に可愛がられたという記憶が無い。それは私のお兄様や叔父(おじ)のところのいとこ達にしても同様だ。

 孫なのに…と思う気持ちもあったけど、おじい様とはそういう人なんだとも思っていた。

 ところが、いきなり現れた高月レイコという従妹(いとこ)がおじい様に溺愛されているのを見て、私は危機感を覚えた。九条家の家督を引き継ぐのは私のお父様のはずだけど、もしかしたら魔女部隊の統括という立場があの泥棒猫に奪われるかもしれない…。

 お母様から魔女部隊統括を引き継ぐのはこの私よ。あの泥棒猫に渡してなるものですか。


 私にも配下というか側近がいるのだけど、その者の勧めで『魔女部隊第二班ウィッチーズ・セカンド』に所属する『召喚の魔女』の小学生の弟を拉致して、その魔女を使って高月レイコを殺すことを画策した私だった。

 ところが大鬼(オーガ)まで繰り出したにもかかわらず、後詰(ごづめ)小鬼(ゴブリン)ともども倒されてしまうとは、いったい何が起こったのか?

 しかも九条家隠密部隊の『一番隊』や『二番隊』までが事件解決のために動き出したことで、身動きが取れなくなってしまった。魔女の弟もいつの間にか奪還され、捜査の手が私まで延びるのも時間の問題となってしまった。

 まぁ、私が画策したという証拠はないはずだけど、あの少年が証言するかどうかが問題だ。おそらく口を(つぐ)むとは思うけど…。


 なにしろ、あの子には証言できないくらいの恥辱を与えたからね。

 私の性癖でもあるんだけど、中性的な少年(小学5年生か6年生で、精通しているかいないかくらいの子)にお小遣いを渡して、女装させるのが趣味なのだ。布面積の狭いショーツにスカートをはかせて、恥ずかしがる(さま)を見ながら、椅子に座ってワインを飲むのが至福なのよね。

 スカートをたくし上げさせて、ショーツの上からのぞくってしまった皮かむりのアレをにやにやしながら見る私。まさに変態ね。

 ショタコンというよりは『男の()』好きという特殊な性癖なのだ。

 高月レイコは私が少年を強姦したと勘違いしてたみたいだけど、実は私は処女だ。もういい歳なのに…。

 いつもは公園などで見つけた少年に大金を渡して女装させるんだけど、今回だけは失敗した。『召喚の魔女』の弟の魅力に負けたと言っても良い。

 つい、誘拐犯である私の顔をさらしてしまったのだ。でも、きっと彼は何もしゃべらないはず…。なぜなら、屈辱と恥辱で真っ赤になりながらも、アレを()たせていたからね。


 そして運命の新年会がやってきた。

 まさか『召喚の魔女』との会話が録音されていたとは…。いえ、高月レイコの誘導尋問に引っ掛かった私が間抜けだったのね。

 私はお兄様とは別々に九条家の持つ別荘の一つに軟禁されることになった。誘拐や殺人未遂を犯した犯罪者に対して、なんとも寛大な処罰だと思う。九条家から犯罪者を出すわけにはいかないという事情もあるのだろう。

 ここに一生幽閉されることになったとしても、敗北した私には抗弁する手段は無い。しかし、命の危険に(さら)されたにもかかわらず、高月レイコは寛大な処分を下した。もしも私だったら死ぬまで軟禁することにしたでしょうね。

 甘すぎると思うのだけど、もしかしたら3年間のうちに毒殺されるという可能性もある。傍目(はため)からは寛大な処分に思わせておいて、こっそりと謀殺するのだ。

 いや、それは無いか…。謀殺なんてしたら、さすがにおじい様に言い訳することができないだろう。だとすると、やはり彼女は甘い人間なのだろうか?ワンチャン、ただの善人という可能性もあるけどね。


 こうして軟禁生活が始まった。

 最初の一年間はとても苦痛だった。なにしろ今まで自由に暴飲暴食を繰り返していたのに、いきなり食事制限がかかったのだ。毎日、適正なカロリー量が計算されて提供されるんだけど、お(なか)()いてたまらない。

 別荘には鏡の(たぐい)が一切なく、自分の容姿を確認する手段が無い。スマホも取り上げられているので、自撮りもできない。

 ただ、身体が軽くなって、別荘の周囲を散歩しても息切れしなくなった。そこから判断するに、ダイエットの効果は出ているのだと思う。


 二年目に突入すると、食事量にも慣れてきて、空腹があまり苦痛にはならなくなった。高月レイコは遠い地方の大学に入ったそうで、東京からはいなくなったそうだ。

 わざわざ地方の国立大学に入るなんてどういうつもりかしら?九条家の人間なら東京の私立大学のほとんどのところには無試験で入れたはずよ。私もそうだったけど…。

 彼女には本当に野心が無いのかもしれない。さらに私に対するこの処分を考えると、本当に優しくて寛大で聡明な女性なのかもしれない…。はぁ、今頃になってそれに気付くとはね。

 私はまだ彼女に謝罪してないことを思い出して、自分自身が(いや)になった。軟禁処分が解かれたら、彼女に会いに行こう。会って命を狙ったことを謝罪するのだ。そう心に決めた私だった。


 三年目、私に課せられた目標は達成できたのだろうか?体重計も無いため、現在の体重が分からない。レイコさんからは『体重を半分にするように』と言われていたけど、ほっそりとした二の腕を見る限り、かなりの体重減になっているはずだ。

 三年前は野太かった声も()せたことで声帯が狭くなったのだろう、高く可愛らしい声になっている。

 軟禁中は世話係以外の人間とは会っていない。両親も面会には来なかった。これは非情というよりは、レイコさんに対する謝罪の一環だろう。なので、私も恨みに思ったりはしていない。

 三年間、スマホもPCも無く、ネットができなかった上に新聞や雑誌の差し入れも無く、世の中がどうなっているのか全く分からない。

 結局、退屈しのぎに本ばかり読んでいた私だった。最初は軽いライトノベルから始めて、次第に昔の文豪の名作などにも手を延ばし、難しい専門書なども取り寄せた。

 で、分かったのが、過去の自分がいかに不勉強で自堕落な人間だったのかということだ。本当に恥ずかしい。

 なお、『男の()』好きという性癖については矯正されたかどうか自信がないけど、少なくとも三年間は我慢できているし、もしかしたらノーマルに戻ったかもしれない。いや、そうであることを願うばかりだ。


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