008 職場
所轄の警察署で行われた事情聴取から解放されたのは夕方だった。
美女先輩と僕は報告のため、いったん会社に戻った。バッグとか会社に置きっぱなしだし…。
「おお、尾錠と津慈、事情はだいたい把握しているが、今回は災難だったなぁ」
職場の直属の上司である森課長から声をかけられた。
他の皆も笑顔で迎えてくれたよ。この会社って(僕のいる部署だけかもしれないけど)良い人ばかりなんだよね。
「皆さん、ご心配をおかけしました。つつちゃんも私も、かすり傷一つなく無事だったことをご報告致します」
「美女先輩と僕がいないことで、なにかと仕事が滞ったことと思いますが、来週からまた頑張ります」
「もう、つつちゃん。美女じゃなく尾錠よ。それはともかく、仕事の面に関しましては、私からも謝罪致します」
美女先輩と僕は揃って頭を下げた。
田中主任が軽い調子で言った。
「尾錠さんはともかく、津慈がいなくても仕事に支障は出ねぇぞ。心配すんな」
うぐっ、僕だってきちんと仕事してるんだぞ。まぁ、まだ社会人2年目だけど…。
僕は高校卒業のあと、大学へは進学せずにプログラマー養成の専門学校に2年ほど通ったんだよね。そのあとこの会社に入って、今年は2年目になる。
美女先輩はたしか現在24歳で、工業系大学の情報工学部を卒業している。んで、この会社に入社したから、僕の一年先輩だね。今年で3年目になるよ。
美女先輩はすでにシステム設計の下流工程を担当していたりするんだけど、僕はまだまだテスト作業がメインの仕事で、たまに簡単なプログラムを任されるくらいなんだよね。うーん、やっぱ大学を出たほうが良かったのかな?
「よーし、今日は尾錠と津慈の無事を祝って、皆で飲みに行くか。現時点で抱えてる案件で、納期がやばいのは無かったよな?」
「ええ、大丈夫のはずです。それじゃ不肖この田中が幹事を勤めさせていただきます」
森課長の提案に田中主任がすぐに答えた。阿吽の呼吸だな。酒を飲みに行くときだけは…。
美女先輩が僕の耳元でこっそりと囁いた。
「もう、今夜はつつちゃんと二人で食事して、色々と聞き出すつもりだったのに…」
耳に息を吹きかけるのは止めてください。ぞくっとしちゃうよ。




