079 高月レイコ⑯
伯父と伯母は顔を見合わせたあと、二人揃って床に正座し、私とおじい様に向かって土下座した。
「私たちの息子と娘の罪を無かったことにして欲しいとは言えませんが、できれば何卒寛大な処分をお願い申し上げます」
「今回の責任をとって魔女部隊統括の座を降りさせて頂きます」
両親が子供たちの罪を土下座で謝罪しているのにもかかわらず、息子は席に着いたまま震えているだけだし、娘も不貞腐れた顔でどっしりと椅子に座っている状態だ。頑丈な椅子だ。
叔父夫妻を見ると、喜色を隠せていない。自分の兄が九条家総帥の後継者レースから脱落したと思っているのだろう。そういうところが総帥にふさわしくないのだけれど…。
「レイコや、処分の沙汰はお前に任せる。好きなようにせよ」
「はい、おじい様。三件の事件では、私だけでなく友人たちの命まで危険に曝しました。その罪は許せません。お兄様とお姉様には九条家の別荘での禁固刑、つまり軟禁を命じます。期間は10年…と言いたいところですが、伯父様や伯母様の顔を立てて3年間と致します。しっかりと反省してください。なお、お姉様にはダイエットを頑張って頂き、その体重を半分にすることも合わせて命じます。痩せさえすれば、遺伝子が仕事をすることできっと美人に生まれ変われることでしょう」
伯父はダンディーなイケメンだし、伯母は美魔女と言っても良いくらいの美人なのだ。今の従姉はおデブちゃんだけど、痩せれば美人になることは間違いないのよね。
「はん、誰がお前なんかの命令に従うか!この泥棒猫」
「私の命令はおじい様の命令ですよ。あと、『召喚の魔女』の小学生の弟さんに何をしたのかをこの場で暴露しても良いのですか?」
これを聞いた従姉は途端におどおどとした様子になり、懇願するような視線を私に向けてきた。そんなにばらされたくないんだ。まぁ、そりゃそうよね。
強姦罪の被害者は女性だけとは限らないってことね。彼の性癖を捻じ曲げたか、女性嫌いにさせてしまったのかは分からないけど、いずれにせよ従姉のダイエットはこの弟さんのためでもある。自分の童貞を奪ったのが、デブスじゃなく実は美人だったと教えてあげることで、少しでも彼の心の慰めになればと思うのだ。
おとなしくなった従姉を見て、何かを察したのだろう。彼女を見る全員の視線がさらに軽蔑したものになった。
さて、あとは伯父夫妻への処分なのだけど…。
「伯父様や伯母様への処分は望みません。お兄様やお姉様は未成年者ではありませんから…。それに経営手腕に優れた伯父様を私は尊敬しておりますし、伯母様の魔女としての力量及び統括者としての功績につきましてもリスペクトしております。魔女部隊は引き続き伯母様が統括して頂ければと思っております」
この発言で、先ほどまで私に敵意を抱いていた伯母の心情を反転させることに成功したんじゃないかしら。実際、伯母のことは一目置いているし…。
「あと、お姉様は勘違いされているようですけど、魔女部隊の統括者は魔女でなければなりません。したがって、お姉様にも私にも統括者としての資格はありませんよ。この場で統括者となり得るのは、伯母様以外であれば叔父様のところのレイカさんだけですから」
そう、九条家魔女部隊の古くからの掟として、『統括者は魔女たるべし』と決まっているのだ。そして、この場に魔女は二人しかいない(私以外ね)。
現統括者の伯母と高校一年生の九条レイカだけであり、この子は叔父一家の次女だ(私の従妹ということになる)。そして驚いたことに、この子は『魅了の魔女』を自称しているのよね。極めて希少な魅了魔法の持ち主が同じ時代に複数存在するなんて、確率的にほぼあり得ないのだけれど…。
この子がもしも魅了魔法を使えるのだとしたら、私のは魅了魔法ではないのかしら?おそらくどちらかが魅了で、もう一方はそうでないのだと思う。比較していないから(できないから)分からないのだけれど。
叔父夫妻は『当てが外れた』というような少しがっかりとした表情をしているけど、そんなに思ってることが顔に出ているようでは総帥としては不適格だと思うのよね。人間的には良い人たちで、好感が持てるのは確かなんだけど…。出会った当初から私に優しく接してくれたのは、この人たちだけなのだ(もちろん魅了魔法は使っていない)。
叔父一家は基本的に善人ばかりで、叔父夫妻だけでなく長男や長女も優しい人たちだ。でも、次女だけは野心家であり、警戒しておくべき人物であると私は評価している。年齢的には私の一つ下なんだけど、吊り上がったアーモンド形の目で見られるとぞくっとしてしまうのだ。美人なのは確かなんだけど…。
なお、これらの人物評は『二番隊』の調査結果に基づいているため、単なる私の印象だけではない。将来的にレイカさんに足元をすくわれないようにしないとね。
「さてこれでこの件はおしまいだ。迷惑をかけた『召喚の魔女』とその弟君には慰謝料として10億円を九条家から出そう。あと、レイコの友人たちへの慰謝料は必要だろうか?」
「いえ、私が九条家の人間であることについては友人たちに隠しておりますので、慰謝料につきましては不要です。代わりに、友人たちの家に何かと便宜を図って頂ければ幸いと存じます」
「うむ、分かった。そうだ、お前の友人の父親である嵯峨野だが、今は市会議員だったな。次の選挙では斎藤の地盤を嵯峨野に引き継がせて、やつを国会議員にしてやろう」
「ありがとうございます、おじい様。友人の嵯峨野マイは優秀な『治癒の魔女』でもありますし、将来は九条家に召し抱えても良いのではないかと思っております」
これを聞いた伯母の目が光った。さすがは魔女部隊統括だ。
このあと二人の従兄妹は『一番隊』の隊員によって食堂から連れ出された。このまま軟禁処分が執行されることになるのだろう。
意外だったのが伯母がしきりに私へ話しかけてくるようになったことだ。しかも自分の息子と私をくっつけようとしてくるのだけど、本当に困る。
「いとこ同士って結婚できるのよね。うちのタカシはどうかしら?顔だけは良いと思うのよね」
タカシというのはさっき連行されていった従兄のことだ。…と言うか、『顔だけ』って自分の息子に対してなんと辛辣な…。『良いのは顔だけ』という意見に対してはとても同意できるのだけど…(笑)
伏線の貼り方が下手くそなのですでに分かっている方も多いと思いますが、ラスボスは高月レイコではなく九条レイカということになります。…って言っちゃったよ(笑)




