078 高月レイコ⑮
修学旅行のあとは冬休みへと突入し、そして新年を迎えた。
ようやく召喚の魔女による山小屋襲撃事件の黒幕が判明したわ。これは『二番隊』の功績ね。
九条家では新年会として東京のお屋敷に一族が勢揃いするのだけれど、そこには伯父夫妻、叔父夫妻、伯父及び叔父の息子や娘たちも参加する。
もちろん私もね。
御前様と呼ばれる九条家総帥、九条ヨシヒサの口上から新年会は始まった。
「皆、今年もよく集まってくれた。新年おめでとう」
「「「「「「「「「「おめでとうございます」」」」」」」」」」
「さて、めでたい席ではあるが、一つ嫌なことを報告せねばならぬ」
皆、御前様が何を言いだすのかを想像できず、顔を見合わせている。
「ここにいる儂の可愛い孫、レイコの命が狙われた。しかも三回もだ。去年の夏、秋、冬と季節ごとに暗殺を企む者がいたようなのだ。お前たちはどう思う?」
すぐさま伯父が発言した。続けて伯母も。
「なんと私の可愛い姪の命を奪おうなどと…。まったく許せませんな。これは九条家に対する挑戦ですぞ」
「ええ、本当に。私の統括する魔女部隊を動員して犯人を懲らしめてやりましょう」
ちらっと従兄のほうを見ると、顔を俯かせてブルブル震えているわね。断罪されるのを待つ気分はいかがかしら?
叔父夫妻やその子供たちも口々に犯人を非難する言葉を発している。まぁ建前なのかもしれないけど。
書類を手にした筆頭執事が語り始めると、騒めいていた場が落ち着いた。
「その件に関する調査結果をご報告させて頂きます」
『水の魔女』による暗殺未遂事件、『毒の王』による毒殺未遂事件の主犯が従兄であることが暴露されると、伯父夫妻の顔色は蒼白となった。
「これは何かの間違いでは?」
「うちの子がそんなことをするはずがないわ」
伯父や伯母が擁護しようと、事実は変えようがない。本人の証言VTRもあるしね。
筆頭執事の断罪劇は続く。
「なお、冬の雪山での魔物襲撃事件は彼の犯行ではなく、また別人が主犯でした。実行犯は『召喚の魔女』であり、『魔女部隊第二班』の一員でした。つまり、この事件の主犯は魔女部隊の統括者ということになりますね。なにか申し開きはありますか?」
「わ、私は命令していない!彼女が勝手にやったことなのか、誰かに命令されたのかは知らないけど、少なくとも私ではないわ」
伯父と従兄が驚いた様子で、目を見開いて伯母を見ている。
「おじい様、私からもよろしいでしょうか?」
「おお、レイコや。もちろん良いとも」
「それでは発言させて頂きます。あなたが『召喚の魔女』を彼女の弟さんを人質にして脅すことで、このような犯行に及んだことは分かっています。分からないのは動機です。そこまでして私を殺そうとする理由はなんだったのでしょうか?九条アスミさん」
全員の視線が九条アスミ、つまり伯父一家の長女に集まった。驚愕の視線だ。そう、犯人は魔女部隊統括の伯母ではなく、その娘(私の従姉)だったのだ。
「何のことかしら?私が命じたという証拠でもあるの?」
震えている小心者の従兄とは違い、悠然と落ち着いた様子で話している。彼女の太った体躯と同様、泰然自若としている様はさすがと言うべきね。
「当然です。すでに『召喚の魔女』の身柄を確保し、人質となっていた弟さんも助け出していますよ。命令書のような紙の証拠は存在しませんが、音声データはしっかりと残っています。『召喚の魔女』があなたとの会話をしっかりと録音していたようですね」
これを聞いた従姉の顔色が悪くなった。
「はったりね。きちんと身体検査したから、あのときに録音機器を身に着けていたはずが無いわ」
思わず失笑してしまった。兄妹そろって馬鹿なの?
「その発言こそが証拠ですね。あ、もちろん録音された音声データもありますよ」
一瞬、何のことか分からないって顔をしたあと、その顔色が紅潮し、すぐに蒼白になった従姉だった。
伯父や伯母も確信したのだろう。自分たちの娘に非難の目を向けている。
「お前、なんのためにこんなことを…」
「だって仕方ないじゃない。この泥棒猫は九条家に入り込んで、おじい様に取り入ったのよ。このままでは魔女部隊統括の座がお母様からこいつに譲られるかもしれない。次の統括者は私のはずなのに…」
伯母がその場で立ち上がるや否や、横に座っていた従姉の顔を平手で殴った。ピシャーンという乾いた音がこの場に響き渡った。




