075 修学旅行三日目③
昨日の曇天(と吹雪)が嘘のように、今日は快晴だ。
僕たちは昼食後、中級者用コースを二度ほど滑り降り、スキーを満喫した。引率のために残ってくれた養護教諭の先生(20代後半の女性)は『若者は元気だなぁ』ってちょっと呆れてたけどね。いや、あなたもまだ若者だと思う。
夕方、ホテルをチェックアウトした僕たちは東京へ向けて移動を開始し、夜には宿泊予定のホテルにチェックインすることができたよ。
「お前たち大丈夫なのか?無理はするなよ」
お昼ぶりに再会した担任の先生からは心配されたけど、大丈夫…元気いっぱいですよ。
ホテルの部屋はツインで、僕はレイコちゃんと同室だ。なお、アヤカちゃんはマイさんと、アイちゃんはタケル君と同室だよ。
「ねえ、ツバサちゃん。昨夜の事件だけど、大鬼と小鬼の襲撃についてどう思う?」
部屋に入ってからすぐにレイコちゃんに質問されたけど、情報があまりにも少なくて何とも言えないよ。
「うーん、魔女の仕業ってのは間違いないんだろうけど、誰が何のために誰を目的として襲ってきたのか…だよね」
「そう、誰かに依頼されたのか、魔女自身の意思で襲ってきたのかすら分からないのよね」
「シズクお姉さんを狙ったストーカー野郎が関わっていると判断するのが妥当じゃないかな?異なる事件が立て続けに起こる可能性は低いと思うし…」
「確かにね。すべてはストーカーが捕まってからよね。すでに指名手配されていると思うし、朗報を待ちましょう」
ただ、結局のところ謎が解けることは無かったよ。なぜなら、ストーカー野郎は死体で発見されたから…。それが報道されたのは、この日の夜の全国版のテレビニュースだった。
『昨日の午後、○○県のスキー場近くで発生した傷害事件の容疑者が本日夕方遺体で発見されました。容疑者の男性は被害者である女性をナイフで切りつけたあと逃走していましたが、傷害事件発生現場である山の中腹付近から下方へとスキーで滑り降りる途中、崖から転落して死亡したものと見られています。警察では事故と事件の両面から捜査を進める方針とのことです』
部屋の中にあるテレビをレイコちゃんと一緒に何の気なしに見ていたら、いきなりこの情報が飛び込んできたのだ。驚いちゃったよ、まじで。
それからしばらくして部屋のドアがノックされたので開けると、アヤカちゃんとマイさん、アイちゃんとタケル君が立っていた。
「お前ら見たか?」
アイちゃんの言葉に頷いたレイコちゃんと僕だった。
ロビーの一角にある応接セットのソファに座って、こそこそと内緒話をする僕たち六人。時間は夜の9時を過ぎているため、周りには人の姿は無い。てか、先生たちに見つかると怒られるかもしれない…。
フロントの人がどこかへ電話してたけど、多分先生の部屋だろうな。すぐに誰かしら先生がやってくると思うけど、それまでは情報共有に努めたい。
リーダーらしくタケル君が口火を切った。
「ストーカーが転落死したらしいんだけど、どう思う?」
「悼む気持ちはねぇな。自業自得だろう」
「僕もそう思う。でもこれで召喚の魔女の襲撃がストーカー野郎の差し金だったのかどうかが分からなくなっちゃったね」
アイちゃんの言葉に僕も同意した。
「召喚の魔女はストーカーさんとは無関係に思えるんだよね。ただの勘だけど」
「うん、私も何となくだけどそう思うのよね。短絡的にナイフで刺すようなやつが計画的に魔女に依頼しておくというのが違和感を感じるというか…」
これはアヤカちゃんとマイさんの意見だ。
「私も召喚の魔女の襲撃については、機を見てのことだと思うわ。目的が暗殺か誘拐かは分からないけど、この中の誰かが狙われたってことでしょう。つまり、狙いはシズクさんではないと思うのよね、確信は無いけど…」
レイコちゃんの意見はもっともだけど、では誰が狙われてるのか?身代金目的の誘拐だとするなら、狙いはマイさん、アイちゃん、タケル君だろうね。
さすがに暗殺目的ってことは無いだろう。そんな恨みを買うような人間がここにいるはずないよ。あ、でも親が恨まれてるって可能性はあるのかも…。うーん、分からん。
「おい、お前たち、そんなところに屯してないで部屋に戻って早く寝ろよ。面倒をかけてくれるなよな」
「あ、先生。ちょっとここに座って僕たちの話を聞いてよ。大人の意見も聞いてみたかったんだよね」
「津慈…、言葉遣い…。俺はこれでも先生だぞ、はぁー(溜め息)」
タケル君が続けて発言した。
「あ、でもちょうど良かったです。担任である先生には詳しい事情を説明しておきたかったところなので…」
このあと、1時間くらいかけて、昨日から今日の未明にかけての事件の顛末を説明していった。タケル君がメインで説明し、他の人が補足していく形だ。
なお、内緒にしてもらうことを条件に、僕の無限倉庫についても打ち明けたよ。
大鬼や小鬼を撃退した話では呆れられたけどね。
「うーむ、まさかそんなことがあったとは…。それにしてもお前たちに怪我が無くて本当に良かったよ。あと、召喚の魔女の襲撃対象者がお前たちの中の誰かという可能性がある限り、再度の襲撃には気を付けておかないといけないな」
「そうですね。リーダーとして僕がしっかり気を付けておきますから」
「ああ、必ず魔法阻害装置の有効範囲内で行動するように心がけろよ。あと、明日の東京観光では変な路地裏みたいなところに行くんじゃないぞ。大通り沿いの人目があるところなら大丈夫だと思うがな」
僕も一応言っておこうかな。
「大丈夫だよ、先生。また襲ってきても返り討ちにしてやるからさ。僕たちがもしも冒険者パーティーならランクは『S』ってところだからね」
「津慈の言ってることが理解できん。おっさんにも分かるように言ってくれよ。あと言葉遣い…」
これを聞いたアイちゃんが僕に言った。
「おい、ツバサ。お前、さんざん俺のことをオタクだ何だと言ってたが、お前もオタクじゃねぇか。てか、俺たちのパーティーって、せいぜいCランクくらいじゃねぇの?」
「いいや、少なくともAランクはあるね。Sランクは盛り過ぎだったかもしれないけど」
このやり取りを聞いていた先生がポツリと言った。
「相田の言ってることも分からんのだが、これがジェネレーションギャップってやつなのか…」
いや、違うよ。ラノベ好きのオタクか、そうじゃないかの違いだよ。だから安心して良いよ、先生。




