表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/132

074 修学旅行三日目②

 目立たないようにサイレンを鳴らさず走る覆面パトカー2台に三人ずつ分乗して、ホテルまで送ってもらった。レイコちゃん、アヤカちゃん、マイさんの三人と、アイちゃん、タケル君、僕の三人だ。

 シズクお姉さんとはお別れの挨拶ができなかったんだけど仕方ないね。連絡先は聞いているから落ち着いたらメールしてみよう。


 車内では運転している若い刑事さんに気を(つか)って最初は無言だったんだけど、しばらくすると刑事さんも一緒になっておしゃべりを始めたよ。仕事中に大丈夫なの?刑事さん…。

「そうか、今どきの高校って修学旅行でスキーなんてやるんだな。地元の俺たちにとっては、スキーなんて子供の時から必須技能だったけどね」

「うん、僕とあと二人の女子が素人でさぁ、初めてスキーをやったんだけど面白かったよ。本当は今日の午前中まで滑れたはずなんだけど、ホテルに着いてももう滑る時間は無いだろうね」

「ごめんな。取り調べで調書を取るのは絶対にやらないといけないんだよ。かなり時間がかかっただろう?」

「それは仕方ないんだけどさ。なんだか僕たちが悪いことをしたみたいに、強圧的な態度で尋問されたのにはムカついたよ」

「ああ、うん、それは本当に申し訳ない。あの人は去年まで少年課にいて、今年から刑事課勤務になったんだよね。君たちくらいの年齢の不良少年少女をずっと相手にしてたから、どうしてもね」

 なるほどね。ムカつく態度の理由は分かったけど、取り調べにあたった強面(こわもて)の刑事に対する悪感情は消せないね。まぁ、もう会うことも無いだろうけど…。


 ホテルに着いたとき学年主任の先生と僕たちの担任の先生が玄関で待っていた。事前に警察から連絡してもらっていたのだ。

「お前たち、無事で良かったよ。本当に良かった」

 担任の先生は中年の男性教諭なんだけど、疲れ果てているように見えた。まさか一睡もしていない?

 タケル君が代表で帰還報告をした。

「先生、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。全員無事にただいま戻りました」

「おぅ、事情は警察から聞いている。お前たちは人助けというとても立派なことをしたんだ。胸を張って良いぞ。まぁできれば誰かに事情を伝えてから行動して欲しかったってのはあるけどな」

 僕たちは顔を見合わせて苦笑した。ベストな対応って、なかなかとっさにはできないよね。


「とりあえず飯食って寝ろ。腹が減っているだろうし、寒さで寝ることもできてないんだろ?今日の午後は東京に向かって出発する予定だが、お前たちだけはここにもう一泊できるようにしておいた。俺はここに残れないから、お前たちの引率者として養護教諭を残していくからな」

 担任の先生の言葉に何とも言えない表情で顔を見合わせる僕たち…。なんか気まずい…。

 アイちゃんが言った。

「あのぉ、実は俺たち腹も減ってないし、昨日はぐっすり寝てるんですけど…」

「馬鹿っ!余計なこと言うなや」

 僕はアイちゃんの背中を平手で思いっきりぶっ叩いた。無限倉庫(インベントリ)がばれるだろ!

 すかさずタケル君がフォローに回った。

「そうですね。ではそうさせてもらいます。ご配慮ありがとうございました」

 担任の先生はアイちゃんと僕のやり取りに目を白黒させていたけど、特に不信感は(いだ)かれなかったみたい。ほんと考え無しに発言するよな、アイちゃんは。


 このあと六人全員で食堂へ向かった。昨日の昼食以降、食事をしていないという建前だからね。実は昨日の夕食も今朝の朝食も()っているんだけどさ。

 ちょうど昼食の時間帯なので、満腹で食べられないってことはないから良かったよ。

「さて、せっかくの先生の配慮だけど、皆どうしたい?当初の予定通り、明日の東京観光がしたいなら午後から移動するし、もう少しスキーを楽しみたいなら今日はここに泊まれば良い」

 タケル君の発言に対して、それぞれが希望を述べていった。

「俺は秋葉原に行きたいぜ。あとアメ横な」

 このオタク野郎…。まさかメイド喫茶に行きたいとか言い出すんじゃないだろうな。アメ横は僕も少し()かれるけど…。

「あの、私も東京は初めてで、ちょっと見てみたいかも…。原宿とか渋谷とか…」

 アヤカちゃんがおずおずと右手を上げて発言した。可愛いな。

「私はどっちでも良いよ。皆さんに従います」

 マイさんって、東京には頻繁に訪れてる感じだよね。垢抜(あかぬ)けてるもの。

「うーん、私もどちらでも良いわ。スキーは大学生になってからでも個人的に来れるしね」

 レイコちゃんはスキーって言うと思ったんだけどな。むむ、味方がいないかも…。


「僕の意見は最後に言うとして、ツバサはどうしたい?」

「うん、僕はもう少しスキーの練習がしたかったな。結局、中級者用コースは一度も滑ってないしね。あ、でも東京行きでも構わないよ。秋葉原じゃなければね」

「おーい、アキバを馬鹿にするなよ。俺とタケルにとっちゃ聖地だぜ」

「ってアイちゃん、すぐに僕を巻き込もうとするのはやめて欲しいんだけど。うーん、そうかツバサの希望ももっともなんだよな。よし、ここは僕に任せてもらえないかな?」

 んで、タケル君が先生と交渉して、次のように決まった。

・今日の午後はスキーを行う。

・夕方の電車で東京へ向かい、当初の予定通り港区のホテルに宿泊する。

・明日の午前中は東京観光を行う。


 つまりここから東京への移動についてだけ、団体行動をはずれるってわけだね。僕としてはありがたいです。さすがはタケル君だよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ