070 深夜の激闘①
「皆、起きて。大きな音を立てないでね」
レイコちゃんが全員の身体を順番に揺さぶって覚醒を促している。ん?もう朝?…ではないな。窓の外では雪が止んで月も出ているみたいだ。かなり明るいけど、それが朝日でないことだけは分かる。いったい何時なんだろ?
「レイコちゃん、どうしたの?」
全員が上半身を起こして目覚めことを確認したレイコちゃんは状況を説明し始めた。
「何か恐ろしいものが近づいてきているみたい。私たちの中の誰かがターゲットなのか、無作為に襲撃してくるのかは分からないけど、戦う準備だけはしておくべきだと思うの」
スマホで現時刻を確認すると午前2時頃だった。いわゆる丑三つ時だな。
山小屋の外からは何か争っている音と声が聞こえてくる。窓からそっと外を覗くと、そこには信じられない光景が広がっていた。
黒っぽい服装の人が何人かいて、その人たちの身長の二倍くらいはありそうな巨大な化け物を取り囲んでいる。さらに周りには倒れている人が何人もいるようだ。
いったい何なの、これ?
突然現れた集団は救助隊なのかな?いや、それよりもあの巨大な生物は何?
全員が窓の外の光景に呆然自失状態になった。僕も含めて…。
一人だけ冷静なレイコちゃんが言った。
「あれって多分だけど、異世界の魔物じゃないかしら?見た目では大鬼のように見えるけど」
はぁぁぁ?この世界には魔物が存在するの?
アヤカちゃんが『検索』を発動したのだろう、すぐに詳細を教えてくれた。
「ええ、あれは大鬼で間違いないわ。召喚魔法で召喚された異世界の魔物みたい」
魔物を召喚する魔法なんてあるんだ…。かなり危険な魔物みたいだけど、僕の重力魔法で対抗できるかな?ああ、でも魔法を使って僕が魔女だってことが皆にばれるのは困る…。
「ねえツバサちゃん、何か武器になるものを持ってない?」
「ううん、料理用の万能包丁くらいしかないよ。あ、エアガンだったらあるけど、玩具だから全く威力はないよ」
「無いよりはマシだから出してもらえないかしら」
レイコちゃんの要請に従って、僕はありったけのエアガンを床の上に並べていった。
ライフルが一丁、サブマシンガンが二丁、ハンドガンが三丁ある。全てガス圧で発射するガスガンというやつだ。女の子らしくない趣味でちょっと恥ずかしい。
「お前まさかサバイバルゲームとかやってるのか?」
「別に良いじゃん。好きなんだよ」
「いや、俺も好きだぞ。タケルもな。銃のラインナップがなかなか通好みだと思うぜ」
お、アイちゃんってば、見る目あるじゃん。ちょっと嬉しい。
ここでレイコちゃんが言った。
「私は琉剛流空手の皆伝だから素手で良いわ。エアガンは詳しい人が使ってちょうだい。そうね、ツバサちゃんとアイちゃん、タケル君が使えば良いと思う。シズクさんとアヤカちゃん、マイさんは奥に隠れてて」
「あ、レイコちゃん。メリケンサックがあるけど使う?空手の精神には反するかもしれないけど」
「そうね。できるだけ攻撃力を上げたいから、できれば貸してもらえるかしら。亡くなった父には怒られそうだけど」
こうして戦闘準備を整えている間に外は静かになっていた。もしかして黒装束の人たちが倒してくれたのかな?
ずっと窓から外を観察していたアヤカちゃんが状況を報告してくれた。
「大鬼の生命力は少しだけ削れたみたいだけど、戦っていた人たちは全滅したわ。あ、全滅と言っても死んだわけではないけど…」
「あいつの弱点って分からないかな?」
僕の質問にアヤカちゃんが再度『検索』で調べてくれたのだろう、すぐに答えてくれた。
「眉間の奥深く5センチくらいのところに魔石が埋まっていて、それを砕けば即死するみたい。でも身長が3メートル以上あるから攻撃するのは難しいかも。エアガンじゃなくて本物の銃だったら倒せそうなんだけどね」
夜まで降り続いていた雪はかなり降り積もっていて、重量級の大鬼は腰のあたりまでが雪に埋まっている。かなり機動力が削がれた状態みたいだけど、それは人間側も同じことだ。
外で戦うべきか、山小屋に入ってくるのを待つべきか?建物の中は天井が低いせいで大鬼は無理な体勢にならざるを得ない。それを考えると建物内で戦闘を行うべきなのかな?
いや、山小屋が破壊されて天井が落ちてくるかもしれないし、非戦闘員であるアヤカちゃんたちに危険が及ぶかも…。うーん、悩ましい。




