007 回想
僕の名前は津慈ツバサ。実は別の世界の記憶を持つ転生者だよ。
前世は魔法なんて存在しない世界で、僕は大学生として勉強やバイトの日々を楽しくすごしていた。享年は21歳。ストーカーからナイフで心臓を刺されたことによる即死だった。
死後、神様的な存在と対面して、転生権の話を聞いた。男性は30歳以上で童貞のまま死ぬ、女性は20歳以上で処女のまま死ぬ…それが転生の必要条件だった。男女差別だな(笑)
とにかく、僕は他の世界への転生権を得たんだけど、転生先として希望はあるか?と聞かれたので、中世っぽい世界は嫌だと答えた。いや、そりゃそうでしょ。衛生観念が無くて不潔なイメージしかないよ。転生するなら現代だよね。あ、でも魔法は使いたいな。
てなわけで、この世界に転生したんだけど、現代から現代への転生なので、知識チートや料理革命は無理…。前世の記憶があっても役に立たないね。歴史も微妙に違うし…。
でも転生者への特典は記憶が残っているだけじゃなく、転生特典としての魔法技能も貰ったんだよね。てか、神様的な存在にごねまくって貰ったというのが正しいかも…。
それがこの世界で僕だけが持つ重力魔法の技能だ。
前世でも今世でも宇宙の根源たる四つの力は、電磁気力・強い力・弱い力・重力だ。魔法力はこれらの力の下位に存在する。でも重力魔法は根源の力に近い魔法なので、あらゆる魔法の上位に存在することになるんだよね。
魔法阻害装置による発動阻止もできないし、火属性魔法の火球なんか握りつぶすことができるよ。
あと、無限倉庫も貰った。転生と言えばこれは必須でしょう。
俺TUEEEなチートっぽい存在になっちゃってるんだけど、僕はこの技能を悪用したりはしないよ。てか、できるだけ隠して生きたいと思っているくらい…。まぁ、裏でこっそりと善行を積むというのが、中二病っぽくて好きってのもあるんだけどね。
今回の一件もそうだな。
なお、銀行の中で使った範囲魔法が『重力範囲』で、誘拐犯相手に使ったのが『重力子攻撃』という魔法だ。
『重力範囲』は半径2メートルの円内を高重力下にすることができる。1Gから10Gの間で発動できるよ。ちなみに1Gで発動すると、重力変化は無いんだけど、魔法阻害装置の影響をキャンセルできるエリアを作れるんだよね。銀行の建物内で透視や認識阻害の魔法を発動できたのは、この『重力範囲』のおかげだね。
もう一つの『重力子攻撃』は、対象となるものに重力子をまとわせることで重力による収縮を発生させる。原理は僕もよく分からない(笑)
とにかく、そういう結果を得ることができる魔法なんだよ。制約としては、あまり大きな物にはかけられない、複数の物には同時にかけられない等がある。大きさ的にはせいぜい手首の先くらいまでだね。頭を丸ごと潰して殺すってのは無理だ。あと、見えていない物も無理…心臓を収縮させて即死ってのはできません。
ちなみに、秘密にしなければならない理由はもう一つある。魔法阻害装置が無効になる魔法を使える存在だと知られたら、政府から暗殺されるか幽閉されるか、あまり良い結果にならないことが想像できちゃうからね。
だって魔法阻害装置があるからこそ社会秩序が保たれているって面もあるんだよ。女性の3割しか魔法を使えないとは言っても、逆に言えば3割も使えるんだよ。それらの人たちが魔法を好き勝手に使ってたら、社会が混乱するのは必至だ。
なのに魔法阻害装置が効かないなんていう存在はやばいでしょ。うん、我ながらやばい…。
ちなみに、電磁気力や二つの核力(強い力と弱い力)に関する魔法はあるのか?神様的な存在に聞いてみたところ、電磁気力に関する魔法技能の保持者は世界に数人いるらしいよ。魔法阻害装置が無効になるのかどうかは分からないけど…。別にフラグを立てるわけじゃないけど、電磁魔法の使い手とは敵としては出会いたくないなぁ。味方だったら頼もしいけど…。