069 高月レイコ⑬
修学旅行二日目にしてこんな事件に巻き込まれるとは思ってもみなかったわ。
そう、アルバイトのスキーインストラクタである日高シズクさんの殺人未遂事件。彼女は私たちのグループのインストラクタとして、初心者である私たち(ツバサちゃん、アヤカちゃん、そして私)に懇切丁寧にスキーの技術を教えてくれた恩人だ。
シズクさんはその腹部をストーカー男にナイフで刺されはしたものの、マイさんの治癒魔法ですっかり完治した。まさに不幸中の幸いだったわね。
それに、ツバサちゃんの無限倉庫のおかげで、本来なら何もない山小屋で快適に過ごすことができている。これもまた本当にありがたいことだと思う。
今の時刻は深夜の11時、私は毛布にくるまって寝ている皆を起こさないように、ゆっくりと扉を開けて山小屋の外に出た。
天候はすっかり回復していて、煌々と輝く満月が私を照らしていた。雲一つないにもかかわらず、月が明る過ぎて星がよく見えないくらいだ。
一つの影が私のそばにすっと寄ってきて折りたたまれた紙を手渡してきた。
その紙を開いて月明りで読んでみると、こう書いてあった。
『県警の山岳救助ヘリは翌早朝に離陸、午前6時頃にはこの場に到着の予定。なお、召喚の魔女がお嬢様を狙っているとの情報あり。五番隊の総力をあげて魔女の確保に注力するも未だ成果無し』
私の護衛である『五番隊』によって、私たちの現在位置はすでに救助隊に伝わっているようだ。それが分かってホッとした。
ただ、召喚の魔女ですって?
誰の命令で動いているのかしら?従兄?…ではないわね。心当たりが多過ぎて犯人を絞り込めない。
まぁ、そんなことはあとでゆっくりと考えれば良いわ。
それにしても今度は召喚魔法か…。
魅了魔法を調べるために図書館で様々な文献に当たってみたとき、召喚魔法についても読んだ記憶がある。
なんでも異世界から魔物を召喚できるらしい。
魔女の魔力量にもよるけれど、小鬼、大鬼、豚人などの人型魔物を召喚できるみたいね。熟練者は竜を召喚できるとも書いていたけれど、さすがにそれほどの技量を持つ魔女はほとんどいないはずだ。
なお、襲撃があるとすれば、今夜のこの状況こそがとても大きなチャンスであることに間違いはない。ここには魔法阻害装置の影響もなく、私の護衛にしてもこの雪山で体力を消耗しているはずだし…。
うーん、参ったわね。
こちらの戦力として当てになるのはツバサちゃんと私くらいかな?アヤカちゃんの検索は戦闘には向かないし、マイさんの治癒もそうね。シズクさんとアイちゃん、タケル君の戦闘力は分からないけど、多分当てにはできないと思う。
敵が小鬼くらいならなんとかなるかもしれないけれど、召喚されたのがもしも大鬼だったら詰みかも…。うちの『五番隊』ですら大鬼の進撃は阻止できないのではないかしら。
ああ、魔物に魅了魔法って効かないのかな?もしも魅了することさえできれば何の問題も無いのだけれど…。




