068 修学旅行二日目⑦
「そろそろ夕食の時間ね。ツバサちゃん、食べ物ってここにあるお菓子類だけ?」
レイコちゃんに聞かれたので、僕はまずカセットコンロを無限倉庫から取り出した。つまみをひねって火を点けたあと、同じように無限倉庫から取り出した鍋をコンロの上に置いた。その鍋の中にはたくさんの具材がすでに煮えた状態で入っていて、湯気を立てている。
人数分の取り皿と箸、それにポン酢も取り出して、床の上に敷かれたマットの上に並べた僕は皆にこう言った。
「寄せ鍋だよ。鶏肉とつみれ、たっぷりの野菜をポン酢で召し上がれ」
あと、大きな重箱を取り出してからその蓋を開けて、おにぎりがずらっと30個くらい敷き詰められているのを見せてあげた。うん、七人なら十分な量だと思うよ。
「おにぎりもどうぞ。あ、寄せ鍋もおにぎりもお母さんと僕の二人で作ったものだから味は保証するよ」
全員の目が点になっているよ。あれ?僕なにかやっちゃいました?
レイコちゃんが呆れた顔で聞いてきた。
「ツバサちゃん、あなた調理済みの鍋をそのまま無限倉庫に入れてるの?」
「うん、だって無限倉庫の中って時間が停止しているからね。おにぎりだってまだ温かいと思うよ」
「そ、それは便利ね。あ、お玉は無いのかしら?」
「おっと忘れてたよ。はい、お玉」
さすがはレイコちゃんだ。ちょっとやそっとのことには動じないね。平常心だよ。
他の皆もすぐに復活して、和やかな雰囲気の中、夕食が始まった。アヤカちゃんに言われた『ツバサちゃんだからねぇ』というセリフの真意は分からないけど…。
「鍋の具材が足らなくなっても大丈夫だよ。まだまだ食材はあるからどんどん追加して煮込んでいくよ。だから遠慮せずに食べてね」
「めっちゃ美味いぜ。いや、まじで」
アイちゃんが料理の感想を言ってくれた。てか、美味しそうに食べてくれるから僕としても嬉しいよ。
「舌の肥えたブルジョア野郎に褒められると一際嬉しいよ。ありがとう」
「ブルジョア野郎って…。まぁ確かにうちの家ってプロレタリアートではないけどな。どうもほんのりと俺に対する悪意が見え隠れしてるような気が…」
「ん?それは誤解だよ。最近は嫌いじゃなくなったから安心して良いよ」
「…って、以前は嫌いだったのかよ。あー、そう言えばイケメンが嫌いだって公言していたよな。あれ?ってことは今の俺って、イケメン枠から外れたってことか?」
「くっくっく、ついに気付いてしまったようだね。そう、『残念イケメン』は僕の嫌いなタイプのイケメンでは無いのだよ」
「誰が『残念イケメン』やねん。全然『残念』じゃねぇよ」
「自覚が無いのかよ。末期だな」
アイちゃんと僕の間で繰り広げられるこうした会話の途中に、タケル君が絶妙な合いの手を入れてくれた。
「君ら、本当に仲良しだよね。良いコンビだよ」
「「コンビじゃねぇよ!」」
また、ハモってしまったよ、アイちゃんと僕のセリフ…。他の皆も笑ってるし…。
こうして暖かい笑いに包まれたまま、修学旅行二日目の夜は更けていくのであった。




