067 修学旅行二日目⑥
5分後くらいにアイちゃんとタケル君が戻ってきた。
「結構怖かったぜ。LED照明が無かったら絶対無理だな、ありゃ」
アイちゃんの言葉に続けてタケル君が冷静に状況を教えてくれた。
「いわゆるポットン便所だったよ。要するに深い穴が開いてるだけのタイプだね。トイレの入口にバケツとスコップがあるから、入る前に周りの雪をバケツに入れてからそれを持って入ってね。中で用を足したあとはスコップで雪を投入しておくと、臭いが出なくて良いと思うよ。あ、穴に落ちないように、それだけは気を付けてね」
すごいな、タケル君、まさに将校斥候だ。アイちゃんとは大違いだよ。いや、もちろんアイちゃんにも感謝してるんだけどね。
このあと、順番に皆で偵察に行った。そう、あくまで偵察にね。決して用足しじゃないよ。
アヤカちゃんと僕のペア、最後にシズクお姉さんとレイコちゃんとマイさんの三人組という構成で七人全員のトイレ偵察が終わったときには、もう外は暗くなってきていたよ。この地域の12月の日没時間は午後4時過ぎくらいだもんね。
「まだ雪は降り続いているし、暗くなってきたから下手に動かないほうが良いだろうね。僕たちがいないことはすでに先生たちにも分かっているだろうから、雪さえ止めばすぐに救助隊が来るはずだよ」
タケル君の言葉が本当にリーダーらしいよ。まさに『立場が人を作る』だね。
ただ、ここで一晩過ごすとなると現状足らない物がたくさんあるんだよね。シズクお姉さんに僕の無限倉庫を打ち明けるしかないかな?
うん、良いや。教えちゃおう。
「シズクお姉さん、今から僕が言うことを秘密にしてくれるって誓える?」
「ん?ツバサちゃんの言うこと?そうね、秘密にして欲しいことを私がペラペラしゃべることは絶対に無いわよ。うん、誓います」
「えっとね、ここにある備蓄物資なんだけど、実は全部僕が持ってきたものなんだよ。僕は無限倉庫を持ってるんだ」
「えええ?それって魔法じゃないけど、魔法よりもすごい技能だよね?うん、納得した。備蓄が充実しすぎてて、おかしいと思ってたのよねぇ」
「とりあえずは人数分の毛布を出しておくね。ストーブはあるけど、床に直接寝るのは底冷えしそうだし…」
すでにシズクお姉さん用に毛布を一枚出していたけど、それとは別に六枚の毛布を取り出した。無限倉庫の中にはあと三枚残っているけど。
「あ、さっきの相田君との会話…、『四次元ポケット』ってそういうことだったのね。さすがに2地点間座標接続装置は持ってないのよね?」
「うん、持ってないよ。あれってめっちゃ高いんだもん。たしか一千万円以上するよね?それにここには電源も無いしね」
2地点間座標接続装置というのは『どこ○もドア』みたいなやつだよ。それがあれば簡単に移動できるんだけど、電源が必要なのだ。なので、ここでは使えないね。そもそもそんな高価なもの、高校生の僕が買えるわけもないんだけどさ。
「なあなあツバサ、無線機なんかは持ってきてないのか?」
「おいおいアイちゃん、電波を出すには免許がいるんだよ。僕は無線士の資格なんて持ってないっつーの」
「うーん、俺は第二級のアマチュア無線技士免許証と、免許状つまりコールサインを持ってんだけどなぁ。お前に短波帯の無線機とアンテナを預けておけば良かったなぁ。まぁお前が無限倉庫を持ってるなんて今日まで知らなかったから無理なんだけど…」
「へぇー、人は見かけによらないね。てか、二級って結構難しいんじゃなかったっけ?」
「おう、難しいぞ。特にモールス信号の聞き取りがなぁ。いやぁ苦労したぜ」
パソコン部の部員だからオタクくさいやつだとは思っていたけど、ハムでもあったのか。あ、ハムって『アマチュア無線技士』のことね。
ここでタケル君が発言した。
「聞かれてないけど一応言っておくよ。僕もアイちゃんと同じ二級の免許を持っているよ。トランジスタやコンデンサなんかの電子部品とバッテリー駆動のはんだごてがあれば、モールス信号で助けを求めるための通信機くらいはすぐに作れるんだけどね」
「ああ、タケルの知識は俺よりもすごいぜ。コンピュータのプログラミングにしても無線機の知識にしてもな」
へぇー、これまた人は見かけによらないってやつだな。
アイちゃんのお守り役ってだけじゃなかったんだね。男子二人の意外な一面を知ることができたよ。




