066 修学旅行二日目⑤
「ツバサちゃん、女の子が『死ね』とか言っちゃダメだよ。えっと相田君だったっけ?その男の子の言葉の意味は分からないのだけど」
「うん、分かったよ。アイちゃん叩いちゃってゴメンね」
僕はアイちゃんに謝りながらも、殺気を込めて睨みつけてやった。
「お、おう。ボケに対する軽いツッコミだから、なんてことないぜ。いや、ボケをスルーされなかったことのほうが嬉しいぜ」
悪い奴じゃないんだよ。いや、ほんと。
タケル君、フォロープリーズ。
僕の心の中の願いが届いたのか、タケル君がフォローしてくれた。
「ツバサとアイちゃんはすごく仲良しなんですよ。まさに相思相愛と言っても良いくらい」
「「いや、それはないっ!」」
アイちゃんと僕の言葉がハモったよ。なんだろ、このシンクロ感…。
「ふふふ、本当に仲良しさんなのね。あのストーカー男ともこんな関係を築けたら良かったのに…」
しんみりと呟くシズクお姉さんだった。慰めの言葉が見つからないよ。
沈んだ空気を振り払うようにレイコちゃんが言った。
「あら、備蓄された資材の中に薬缶があるわ。水もあるからこれでお湯でも沸かしましょう。コップもあるみたいよ」
さっき無限倉庫からこっそり出しておいたのだ。カップスープの素だけじゃなく、インスタントコーヒーや紅茶のティーバッグも一緒にね。
レイコちゃんがアヤカちゃんと一緒に水を入れた薬缶を準備して、薪ストーブの上にかけてくれた。
すぐに薬缶からしゅんしゅんと音が出始め、蒸気が立ち昇り始めた。なんか癒される。
電気が通じていないので、照明となるものは薪ストーブの火と窓から入る日光だけだ。外は吹雪で薄暗くなっているため、ストーブの火だけがメインの灯りとなっている。なんか物悲しくなっちゃうから、電池式のLED照明器具でも出そうかな。
「あ、ここに照明器具があったよ。スイッチは…と。お、点いた。電池が生きてて良かったよ」
ちょっと小芝居しながら無限倉庫からこっそりと取り出した僕だった。
「お湯も沸いたわよ。インスタントコーヒーや紅茶、それにスープもあるから全員希望を言ってね。あ、もちろん砂糖もあるけど、さすがに牛乳やクリームは無いみたいね」
レイコちゃんの言葉に皆それぞれ自分の飲みたいものを伝えている。なお、牛乳やクリームも無限倉庫には入っているんだけど、この小屋の常備品としては不自然なので出さなかったのだ。
シズクお姉さんとマイさんと僕がカップスープ、アイちゃんとアヤカちゃんが紅茶、レイコちゃんとタケル君がコーヒーだったよ。
「うう、温まる~」
「だね~」
まったりと寛いでいる今の時刻は午後3時くらいだ。ちょうどおやつ時だね。昼食が少し早い時間だったから小腹も空いてきたよ。
この山小屋に来てからすでに2時間ちょいくらいは経っている。天候が回復しないとどうしようもないんだけど、最悪ここで一晩過ごすことになるかもしれないな。
てか、そうなると困るのがトイレだな。この小屋の外に小さな建物があったけど、あれがおそらくトイレっぽい。電気の照明も無いだろうし、水洗であるはずもない、しかも外にあるトイレだよ。ちょっと怖いよ。
「ねぇアイちゃんさぁ、トイレに行きたくない?」
「ん?いや俺は別にまだ大丈夫だな」
「良いから行けや。行ってどんなトイレか確認してきてよ。要するに偵察隊だよ」
「お、おう。そうか、んじゃまぁ行って見てくるか…。怖いからタケルも一緒に行こうぜ」
『怖い』って何だよ。男だろ。僕も怖いけど…。
「あ、このLED照明を持っていきなよ。多分、トイレの中は暗いよ」
アイちゃんとタケル君が二人で小屋を出ていったあとに、残った全員から感謝された。
「うう、ツバサちゃん、ありがとう。私もどう切り出そうか悩んでたの」
アヤカちゃんの言葉だ。いや、僕もそろそろ我慢の限界なんです。




