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063 修学旅行二日目②

 昼食後、中級者用コースのリフトに乗ってスタート位置に到着した僕たち六人とシズクお姉さん。なお、ここを滑り降りた段階でお姉さんとはお別れとなる。

 突然、一人の若い男が近づいてきて、シズクお姉さんの肩に手を回して何かを(ささや)いていた。地元だし、知り合いもいるよね。

「皆、ごめんなさい。ちょっと急用ができたため、ここでお別れです。本当にごめんなさいね」

 シズクお姉さんの笑顔が少し作り笑いっぽいというか、引きつっていたように感じた。あと、いきなり仕事放棄をするなんて、真面目そうなシズクお姉さんらしくないよ。

 男はストックのストラップを手首にかけた状態で、右手はお姉さんの肩に、左手はお姉さんの腰のあたりにそえている。左手付近に銀色のものが見えた気がしたけど、なんだか嫌な感じだ。


 男とお姉さんはなぜかコースから外れて、一緒に林の中に入っていった。

 タケル君が不審そうに言った。

「なんか変だな。追いかけたほうが良いかもしれない」

「でもコースから(はず)れることになるから、最悪の場合、遭難したりしないかしら?」

 レイコちゃんの懸念ももっともだ。特に初心者のアヤカちゃんと僕にとっては厳しいかも…。

 ここでアヤカちゃんが不安そうな表情で発言した。

「さっきの男の人、シズクさんにナイフを突きつけていたように見えたのだけど…」

「あ、僕もなんか銀色のものが見えたよ。あれってナイフだったんだ」

 そう、何気にアヤカちゃんは観察力に優れているのだ。眼鏡をかけてることから分かるように視力は悪いんだけどね。

 てか、僕の見た銀色のものがナイフなら、大変なことだよ。シズクお姉さんは脅されて連れ去られたってことになるじゃん。


 レイコちゃんが行動方針を提案した。

「私たちで追いかけましょう。こうしている間にも痕跡を見失ってしまうかもしれない」

「うーん、よしツバサはタケルにおぶってもらえ。アヤカは俺がおぶっていくから板とストックはここに残していけよ。レイコは一人でも滑れるよな?」

 アイちゃんが初心者のアヤカちゃんと僕に気を遣ってくれたよ。成長したな、アイちゃん。

「スキー板とストックは僕が持っていくから心配しないで」

 僕はすばやく板を外してストックと共に無限倉庫(インベントリ)に収納した。アヤカちゃんの分もね。

 アイちゃんとタケル君が驚いて僕を見てるけど、事情を説明するのは後だ。今は時間がもったいない。


「タケル君、重くないとは思うけどよろしくね」

「あはは、とても軽いよ。しっかりつかまっていてね」

 僕の言葉に対するタケル君の返答だ。うむ、紳士だ。


「よ、よろしくお願いします」

「おう、そこそこ重いけど大丈夫だぞ。左手でお尻を触るかもしれないがそこは勘弁な」

 これはアヤカちゃんとアイちゃんの会話だ。てか、アイちゃんってば、『重い』とか『お尻』とか、まじでデリカシーのかけらも無い。だから残念イケメンと呼ばれるんだよ。


 僕たちは林の中に延びるスキー板の軌跡をたどりながら、シズクお姉さんの行方を捜索した。

 少し(くだ)っていった先に小さな山小屋みたいな建物があった。スキーの跡はその小屋の入口へと延びている。

 僕たちは音を立てないように静かに小屋へと近付き、そっと窓から中を(のぞ)いてみた。男とシズクお姉さんが立ったまま向き合っている。窓ガラスに(さえぎ)られて声は聞こえないけど、何か言い争っているようだ。

 …っと、男が握っていたナイフをお姉さんの腹部に突き刺したのが見えた。

「あああ!」

 僕は前世の記憶がフラッシュバックしてパニックになってしまい、思わず大声をあげてしまった。まさに前世で僕がストーカーに殺された状況と同じだ。場面は異なるけど…。

 あと、魔法がありながら凶行を止めることができなかった罪悪感もある。

 急いで山小屋の出入口に回ってドアを開けようとしたんだけど、中から鍵をかけているみたいで開けられない。アイちゃんが足で強引にドアを蹴破り、中へと踏み込んだ。


 そこには両膝を床に付けて、ナイフが腹部に刺さったままのシズクお姉さんの姿があった。

 男の姿は見当たらないけど、僕たちが覗いていた窓とは反対側の窓が開いていることから考えて、逃げたのだと推測できる。くそっ!


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