056 高月レイコ⑪
文化祭は大盛況のうちに終わった。
その後の調査で判明したのは、毒を混入した屋台の店主は洗脳されていたらしいってこと。魅了魔法ではなく、どうやら薬物摂取によるものみたいだけどね。
毒の調合ができるんだから、洗脳用の薬物調合もお手のものってことのようね。
屋台店主の約半数が洗脳状態だったのには驚かされたわ。私の写真を見せた瞬間、すんっと表情が消えるのだ。そして、毒の小瓶を取り出して出来上がった料理に振りかけていたらしい。
無差別殺人でない点は評価しても良いけど、私の友人たちまで危険にさらしたことには怒りを禁じえない。アヤカちゃんが気付いてくれなかったら、四人全員死んでいたかもしれないのよね。
ただ、『五番隊』による必死の捜査にもかかわらず、『毒の王』を発見することはできなかった。さすがは裏社会でも一級、いえ特級の暗殺者と言われているだけのことはある。九条家のお抱えとして、三顧の礼で迎えても良いくらいだわ。
そして暗殺が失敗したまま放置することって、プロとして絶対にあり得ないのよね。うーん、どうしましょう?
対策としては次のものがある。
1.『毒の王』を見つけ出して殺害する。
2.最初の依頼者、つまり私の従兄よりも多くの金銭で『毒の王』を買収する。
3.従兄を拉致して、私の暗殺依頼を取り消させる。
1ができれば簡単なのだけれど、おそらく難しいわね。2も可能性が無いわけではないのだけれど、相手がプロの矜持を持っている場合は難しいでしょうね。
となると、3しかない。魅了魔法を使えば、操るのは簡単だし…。
私は従兄の拉致を『五番隊』に命じた。
なお、伯父には優秀な護衛が張り付いているけれど、従兄に付いている護衛を出し抜くのは簡単だったそうだ。
監禁用のアジトになっている廃屋に連れてこられた従兄はパニック状態になっていた。
「お、俺を誰だと思っている?九条財閥の直系だぞ。危害を加えるよりも身代金を取ったほうが絶対に得だからな。俺の親父なら1億円くらいすぐに出してくれるはずだ。な、そうしよう。金で解決しようぜ」
成人しているはず、いえたしか25歳くらいだったかしら?この歳の男性としては少し子供っぽいのではないかしらね。
覆面姿の男たちの後ろから私が姿を現すと、ようやく事情を察したみたい。
「お、お、お前は高月レイコ…。俺にこんなまねをしてタダで済むと思ってやがるのか?俺を解放しないと親父に、いや爺に言いつけるぞ」
爺って祖父の九条ヨシヒサ、つまり御前様のことよね。
私は微笑みを浮かべたまま、従兄に話しかけた。
「8月に水の魔女を使って、そしてこの前は『毒の王』という暗殺者を使って私を殺そうとしましたよね?」
「し、知らん!証拠は?証拠はあるのか!俺はそんなことを命じた覚えはない!」
面倒なので魅了魔法を発動した。
「私への暗殺依頼を行ったことについて自白しなさい」
「…はい。まず水属性の魔女へ依頼した件ですが…」
ペラペラと自身の悪行を語り始めたので、その場面をしっかりと映像で記録したわ。伯父にも見せてあげないといけないしね。
ここにいる『五番隊』の隊員たちはすっかり素直になった従兄に驚いていたようだけど、私の魔法には気付いていないみたいだった。そりゃそうよね。魅了なんて伝説級の魔法だもの。
そして最後に最も重要な命令を下した。
「ここから解放されたあと、私への暗殺命令の取り消しを『毒の王』に連絡しなさい。ただし暗殺の成功報酬については、その支払いを申し出ること。もしも取り消し命令を拒否された場合は、必ず私に報告すること」
「はい、かしこまりました。仰せの通りに致します」
暗殺の取り消し命令が受け入れられることを祈るしかないわね。もしもダメなら『一番隊』から『四番隊』までを『毒の王』の捜索に追加投入して、人海戦術でなんとかするしかないのかも…。はぁー、従兄を放置しておいたツケね。これは私の判断ミスと言わざるを得ない…。
馬鹿と侮っていた従兄にしてやられたレイコさん。でも伯父に対する強力なカード(自白映像)を手に入れたってことでもあります。
てか、レイコさん視点だと、どうしても重苦しい感じの話になっちゃいますね。




