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055 高月レイコ⑩

 文化祭には外部の業者が出入りできるため、暗殺者もこっそりと校内に入ることが可能だ。

 伯父(おじ)の馬鹿息子(つまり私の従兄(いとこ))が何か仕掛けてくるとしたらこの文化祭の日か、来月の修学旅行だろう。ただし、この従兄(いとこ)についてはきちんと隠密部隊の監視下に置いているので、殺し屋など裏社会の人間と接触すればすぐに分かるようになっている。

 そして、どうやら『毒の王(キングオブポイズン)』の二つ名を持つ殺し屋を雇ったらしい。かなり大袈裟な名前ね。

 自ら調合した毒薬を屋台で売る食べ物に仕込んで、暗殺対象、つまり私を毒殺するという計画らしい。数々の状況証拠から推測した結果だけどね。

 でも、私や友人たちがその屋台から食べ物を買わなければどうするのだろう?どうにも確実性が無いわね。あと、もしも友人たちを害したら絶対に許さないから…。死んだほうがマシという目に()わせてあげるわ。


 事前に調査した結果、ある屋台の店主が怪しいということだったので、私は文化祭当日、その屋台で食べ物を注文した。ツバサちゃんと手分けして、四人分の料理を買うつもりなのだ。

 刑事の張り込みのように近くで待機していた『五番隊』の隊員によって、店主が料理中に何かを混入した瞬間をとらえてその身柄を拘束した。とても凄腕の殺し屋とは思えないような普通の中年男性だったわ。あっけないわね。

 別の屋台に並びなおして、注文した料理を受け取った私は三人が待つテーブル席に向かった。

 先に戻っていたツバサちゃんが買ったはずの食べ物がテーブル上に無い。あれ?どうしたのかな?

 それからのやり取りは本当に驚きだった。まさかツバサちゃんが無限倉庫(インベントリ)を持っていたなんて…。今までずっと隠していたのに、私たちを信用してその秘密を明かしてくれたのは嬉しかったな。


 そしてもう一つ、このあとの出来事にも驚かされた。

 突然、アヤカちゃんが鋭い声で皆に注意喚起したのだ。

「皆、食べるのはちょっと待って!」

 テーブル上に並ぶ数々の料理をじっと見つめるアヤカちゃん。私もツバサちゃんも何事かと固まっている。

「あの、とても言いにくいんだけど、この食べ物だけ毒が入っているみたい。他の料理は大丈夫なんだけど、これだけは食べてはダメ。致死性の毒みたいだから」

 アヤカちゃんが指さした料理は私が買ったものだった。え?どういうこと?暗殺者の屋台とは別のところから買ったもののはずなのに…。


「ツバサちゃんが秘密を明かしてくれたから、私も自分の秘密を明かします。私は『検索(サーチ)』という能力を持っているの。この世界の全ての情報を網羅しているデータベースにアクセスして検索できる能力よ。それによると、この料理にはテトロドトキシンが入っているみたい。いわゆるフグ毒ね」

 え?え?最初の屋台の店主が『毒の王(キングオブポイズン)』ではなかったの?

 思わぬ事態にちょっとパニックになってしまった私だった。

 ツバサちゃんがアヤカちゃんに話しかけている。

「それって『鑑定』能力ってこと?すっごいなぁ。でも、いったい誰を狙ったものなんだろ?ここに金持ちのお嬢様って、マイちゃんしかいないよね。一般人の僕たち三人が狙われるわけないし…」

 いえ、ターゲットは私ね。

 さりげなく私のそばにいた護衛の隊員が離れて、他の隊員と連絡を取り合っているのが視界の端に(うつ)っている。すぐにさきほどの屋台店主も拘束されることになるだろう。

 それにしても状況がさっぱり分からない。

 殺し屋は誰なの?


「私が毒を入れたわけではないわ。私が買ってきたものだけど…」

 この私の言葉に全員が真剣な表情になった。

「あったりまえじゃん!てか、狙われたのはレイコちゃんって可能性もあるよ。まさか師匠の因縁じゃないだろうね?」

 ツバサちゃんが怒ったように言ってくれた。ありがとう。

「ううん、違うと思う。私の亡くなった父親の関係者って線では無いはずよ。私個人を狙ったものなのかもしれない。理由は分からないけど」

 ごめんなさい。『かもしれない』じゃなくて、まさに私を狙ったものよ。理由も黒幕も分かっているわ。実行犯は(いま)だに姿が見えないけど…。


 ここでアヤカちゃんが発言した。

「警察に通報して鑑識係に調べてもらわないと…」

 うーん、その場合、文化祭がめちゃくちゃになってしまうわね。どうすべきか…。

 私は少しだけ考えてから言った。

「ここは何も無かったことにしましょう。もちろん、私のほうでしっかり調査はするから心配しないで…。どうか私を信用して任せて欲しいの」

 ツバサちゃんやアヤカちゃんは、まさか私がこんなことを言うとは思ってなかったのだろう。驚いた顔で目を見合わせていた。

 最初に答えてくれたのは、やはりツバサちゃんだった。

「僕はレイコちゃんを信じるよ。うん、任せておいても良いんじゃないかと思う。でも一人で危険なことには首を突っ込まないでね。もしも危険なことをするときは、必ず僕に声をかけること。良いね?」

 アヤカちゃんとマイちゃんも同意してくれた。本当にありがとう。

 毒を混入した二人目の屋台店主もおそらくは『毒の王(キングオブポイズン)』ではないだろう。絶対に尻尾を(つか)んでみせるわ。そう決心した私だった。


 なお、アヤカちゃんの『検索(サーチ)』も魔法ではないので、魔法阻害装置(ジャマー)の影響は受けません。


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