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051 高月レイコ⑨

 スクリーンに映る場面はどこかの室内に切り替わった。警察署の取調室みたいな狭くて殺風景な部屋だ。

 顔の見えない男が実行犯である男子生徒を尋問している。

「服の(えり)を引っ張って転倒させたのは君の発案ではないと言うのかね?」

「はい、その通りです。陸上部の先輩からの命令ですから逆らえなかったんです。もし逆らえば部の中でいじめられてしまいます。俺は本当はあんなことをしたくはなかったんです」

「ふむ、それではその先輩の名前を言ってくれるかな?」

「はい、3年A組で陸上部のエースの斎藤先輩です」

 講堂内が大きくどよめいた。壇上で生徒会長と並んで立っている斎藤先輩を講堂内にいる全員が一斉に注目した。


「馬鹿なっ!俺は何も指示していないぞ。あんな卑怯なことをする(くず)の証言なんか信じられるか!だよな?」

 斎藤先輩が壇上で大声を張り上げている。

 生徒会長が紙の束を左手に持って、それを右手でめくりながら言った。

「この報告書によれば、尋問した際に『読心』の魔女が同席しており、彼女によって『この男子生徒は嘘を言っていない』ということが証明されているそうです」

「なっ!いや、俺はCチームを軽く妨害するようにお願いしただけで、あんな酷いことを指示した覚えはないぞ。せいぜい体操服の腰のあたりを引っ張るくらいだと思っていたんだ」

「ということは、妨害の指示は認めるんですね?」

「いやいや、指示とか命令じゃなくて、お願いをしただけだ。あいつが勝手に命令だと勘違いしただけで…」

「同じ部の先輩からの『お願い』なんて命令と同じですよ。分からないのは動機です。そんなにAチームを優勝させたかったんですか?」

 そう、私もそこが知りたい。チームのために汚れ仕事をするなんて、逆に見上げた精神と言えなくもない。まぁ、許さないけどね。


「この俺が属しているチームが高校の体育祭ごときで優勝できないなんて、恥ずかしくて誰にも自慢できないじゃないか。俺は選ばれし者だぞ。二十年後には親父の地盤を継いで国会議員になるつもりだしな。今回の一件も、将来、国政を(にな)う俺の立場を考えて穏便に済ますようにしろよ。それとも国会議員である親父から命令してもらったほうが良いか?」

 見事な(くず)ね。親が持つ権力を自分の力だと勘違いしている(やから)だわ。

 生徒会長が残念そうに言った。

「もしも被害者であるCチームの男子生徒に心からの謝罪をしたならば、穏便に済ます予定でした。この映像を流すことになって本当に残念です」


 生徒会長がプロジェクターのリモコンを操作すると、新たな映像がスクリーン上に投影され始めた。

 そこには一人の中年男性が映っていた。

「この映像が(おおやけ)のものになっている場合、俺の息子は全く反省していないということになる。その場合、誠に残念だが親子の縁を切らざるを得ない。つまりは勘当だ。俺の所属する派閥の長からの命令だからな。なお、その方もさらに上の方からのご命令を受けたらしい。お前はいったいどれだけの大物を怒らせたのだ」

「お、親父…」

 斎藤先輩が絶句している。誰にでも間違いはある。しっかり反省していれば、ここまでするつもりはなかったのよね。

 でも彼は反省するどころか、権力を笠に着て威圧してきた。更生の余地は無い。


「斎藤さん、表彰の件は嘘なので、もう壇上から降りてもらっても構いませんよ。ああ、このあと担任の先生から通知されるでしょうけど、大学のスポーツ推薦は取り消されました。大学進学は一般入試で頑張ってくださいね。もっとも勘当されたわけですから、果たしてこの学校の授業料が払えるかどうかが問題ですけどね」

 生徒会長が更なる追い打ちをかけている。グッジョブね。

 斎藤先輩はのろのろと覚束(おぼつか)ない足取りで生徒の列の中へと消えていった。ここを退学して、別の公立高校へ編入させてもらうしかないでしょうね。特待生資格が得られるほどの頭は無いみたいだし…。


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