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050 高月レイコ⑧

 体育祭で変な事件が発生した。

 私は別にうちのチームが優勝でも準優勝でも構わないし、そこまでの思い入れはない。運動部に入っているわけでもないしね。

 でも、あの転倒の仕方はおかしい。転ぶのなら前のめりに転ぶはずだ。あれは素人がアイススケートで転ぶときのような感じだった。下半身が前へ進むんだけど、上半身が後ろに倒れるような感じね。

 私は校舎裏でこっそりと『五番隊』隊長に指示を出した。隊員の中で交渉事に()けた人を使って、父兄の撮影したホームビデオのデータを買い取るようにと。

 様々な角度から検証すれば、あのとき何があったのか分かるでしょう。


 体育祭の三日後、報告書が上がってきた。

 転倒は事故ではなく、他者による作為があったとのこと。具体的には、抜かれそうになったBチームの走者がCチームの走者の服の(えり)をつかんで引き倒したらしい。倒されたCチームの男子が訴え出なかったのは、後頭部を強打して意識が朦朧(もうろう)としていたから…。きっと何があったのか分からなかったのだろう。

 これだけならまだ良かったのだけれど、実はその行為を指示した人間がいたらしい。これは犯人であるBチームの生徒を拘束して真実を聞き出した『五番隊』隊長のファインプレーね。

 供述によると、陸上部の先輩から指示されたので仕方なく従ったということだった。そして、その先輩というのがAチームのアンカーだった男子生徒だ。こいつはスポーツ推薦ですでにある有名私立大学への進学が決まっているそうで、進学後も陸上部での活躍が期待されているとのこと。

 本人からの供述はまだ得られていないので、その動機は不明みたいだけどね。


 ふむ、どう決着を付けましょう?

 幸いなことに転倒させられた1年C組の男子生徒に後遺症はなかったようで、軽い脳震盪を起こしただけだったみたい。だからと言って、犯人たちの罪が消えるわけじゃない。

 断罪はするべきね。私の中の『正義』がそう訴えている。

 あと確証はないのだけれど、いじめの首謀者として、同じクラスの女子生徒を不登校に追いやったという噂も出てきているのは要調査ね。

 まぁ、とりあえずは今回の件のみを断罪するとしましょう。


 次の週の月曜日、緊急全校集会を開くように校長先生にお願いした私は、事件の瞬間を克明(こくめい)(とら)えたホームビデオの一場面と実行犯である1年B組の生徒の供述を撮影したものをビデオ編集ソフトを使って編集した。全校集会で大スクリーンに投影できるように、講堂内にプロジェクターの設置もしたわ。もちろん九条家のお金でね。

 生徒全員の前で真実を暴露された犯人たちがどういう反応をするのか、とても楽しみだわ。

 断罪役は生徒会長にお願いした。もちろん、私からではなく校長先生から生徒会長への依頼だ。私の正体(九条財閥の係累であること)を知っているのは校長先生だけだからね。


 そしていよいよ全校集会の当日になった。

 壇上に上がった生徒会長が話し始めた。ちなみに、生徒会はすでに2年生に引き継がれているので、会長も私たちと同じ2年生だ。

「今日はこの前の体育祭で自身の所属するチームを見事な優勝に導いた男子リレーのアンカーである斎藤さんを表彰したいと思います。彼は陸上部のエースでもあり、進学先の大学でも活躍が期待されている俊英であります。3年A組の斎藤さん、壇上へ上がってください。皆さんは拍手をお願いします」

 A組の生徒は割れんばかりの拍手をし、B組からD組の生徒はおざなりの拍手をする中、誇らしげに壇上に上がってくる斎藤先輩。とても嬉しそうだ。

 生徒会長は微笑んではいるものの、目が全然笑っていない。かなり怒っていることが分かるわね。それよりも、たかが体育祭のリレーのアンカーというだけで表彰されるということに斎藤先輩は違和感を覚えないのかな?馬鹿なの?

 あと、本当にどうでも良いことだけど、斎藤先輩の容姿は1、2年生が憧れの目で眺めるくらいには整っているほうね。私の好みじゃないけれど。


「表彰の前に、皆さんには今から流す映像をご覧になって頂きましょう。後ろの人たちが見やすいように、皆さん床に腰を下ろして体育座りしてください」

 大きなスクリーンがするすると()りてきた。講堂内の照明が消され、プロジェクターが起動した。

 映っているのは体育祭の男子リレーの場面だ。まさにCチームの男子生徒が転んだ瞬間ね。拡大された映像が角度を変えて何度も映し出されていく。私の渾身(こんしん)の編集だ。

 そこにははっきりと、Bチームの走者がCチームの走者の体操服の(えり)に手をかけて、後ろに引き倒している様子が見て取れた。

 どよめく生徒たち。いや、先生たちもだ。

 特に、激高してその場に立ち上がったのが転倒させられた男子生徒その人だった。きっと体育祭のあと、クラスの人たちから責められたのだろう。少し涙ぐんでいるように見えた。

「ふざけんなよ。くそっ、ふざけんな」

 犯人である1年B組の男子生徒を探しているようだけど、その生徒は両腕で膝を抱えて、その中に頭を突っ込んで震えていた。


 壇上にいる斎藤先輩を見ると、何食わぬ顔で澄ましている。自分には関係ないと思っているのだろう。

 くくく、このあとの映像を見てもまだ澄ましていられるかしら?


 どう見てもレイコさんのほうが主人公っぽい…。そう、第2章の主人公って、実はレイコさんだったりして…。


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