047 高月レイコ⑦
昼食のあと、全員が自分に割り当てられた部屋(各人に個室が準備されていたのだ)に戻って、荷物をまとめたりするなど帰る準備を始めた。私だけはこっそりと建物から抜け出し、『五番隊』の隊員によって人払いがされた林の中の一角に来ている。
そして現在、『五番隊』隊長が土下座しているのを見下ろしているという状態だ。
「申し訳ありません。水の魔女に魔法を撃たれてしまいました」
どういう魔法なのかは分からないけれど、攻撃的な魔法であったことは確からしい。あら?そんな魔法で攻撃された覚えはないのだけれど…。
詳しく聞いてみると、魔法が私のほうへ撃ち出されたのは確実だったのに、なぜか途中で消えてしまったのだそうだ。放たれた魔法が途中で消えることなんてあるのかしら?
まぁ、それはともかくとして、私が気付いていないのに自らの失態を自己申告した隊長の誠意を責める気にはなれないわね。
「謝罪は確かに受け取りました。頭を上げてちょうだい。それでその魔女の身柄は確保できたのかしら?」
「もちろんです。しっかりと拘束しております。バッテリー駆動の携帯型魔法阻害装置を首に取り付けておりますので、魔法発動の危険もございません」
「そう、それでは尋問は任せるわ。ほかに仲間がいるのかどうか、何よりも依頼者が誰なのかは必ず聞き出しなさい」
「はっ、お任せください。必ずやご期待に副うように致します」
『一番隊』から『五番隊』までの隊長や隊員たちを魅了しているわけではないのでその忠義については信用するしかないのだけれど、おそらくこの人は大丈夫だろう。ただこれから伯父たちと戦う場合、面倒だけど五人の隊長くらいは魅了魔法で洗脳しておいたほうが良いのかしら?金銭などで買収されて裏切られる…といった可能性は否定できないものね。
このあと、私は部屋の窓から別荘の建物内に戻って、何食わぬ顔で皆に合流した。
「さて、それじゃあ帰るか。皆、楽しんでくれたかな?」
相田君の発言に対して、全員が口々にお礼の言葉を述べた。もちろん、私も…。
トラブルはあったけど本当に楽しかったわ。相田君には本当に感謝ね。もしも相田家の事業が苦境に陥ったら、九条財閥が必ず助けるわ。そう心に決めた私だった。
そして後日、水の魔女の依頼者が判明したそうだ。それは伯父でも叔父でもなく、伯父の家の長男だった。つまり、私の従兄ということになる。
従兄はすでに成人していて、伯父の経営する大企業に勤めているとのこと。噂では、傍若無人な振る舞いが目に余る馬鹿息子らしい。
なるほど納得だ。伯父や叔父にしては考え無しだなと思っていたのだ。どちらも一角の人物という噂だからね。まぁ、子供の教育には失敗しているみたいだけど…。
今回の事件については、実行犯である魔女の証言内容を記録して証拠とするのはもちろんだけど、それを伯父や従兄に突き付けるのは止めておいた。もちろん、従兄を犯罪者として捕縛することも…。九条財閥総帥である御前様へも報告せず、私と『五番隊』限りの話に留めておいた。
まだはっきりと敵対しているわけではないけれど、将来的にはどうなるか分からない伯父に対する切り札にするためだ。
まぁ、今後もこの従兄が私の暗殺を試みる可能性はあるけれど、そのくらいのリスクは許容範囲だろう。どうやら馬鹿みたいだし…。
主人公視点ではどうしても事件の裏側が分からないため、レイコさん視点が多くなっちゃいますね。




