045 高月レイコ⑥
湖での事件があった日の夜、私の護衛である『五番隊』の隊長から報告が上がってきた。さすがに仕事が速い…。まぁ、本人は襲撃を未然に防げなかったことについて、しきりに恐縮していたけれど。
隊長からの報告内容は、水属性の魔女の身元が判明したということだった。湖の畔にスマホなどの彼女の所持品、替えの服などが隠されてあったのを見つけたらしい。そして、彼女のスマホにコンピュータウイルスを仕込んで、位置情報や通話履歴、メール内容やメッセージアプリの会話などを九条家の管理下にある海外のサーバへと送るようにしたそうだ。
なるほど、魔女本人の身柄を確保するよりも、このほうが依頼者を見つけ出すのに良いかもしれない。捕縛しようと思えば、すぐにできると言っていたし…。
ツバサちゃんには『さっきのは軽いいたずらだろうから、大袈裟に騒ぎ立てないように』とお願いしておいた。不審者情報として警察に届けておいたほうが良いのでは?と彼女は言っていたけどね。ごめんね、ツバサちゃん。
相田君や佐藤君たちはボートの距離が離れていたのもあって、襲撃事件には気付いていなかったのが不幸中の幸いだった。
ただ、あの魔女はまだ襲撃を諦めていないだろう(プロの殺し屋なら当然だ)。街中に戻ればどこにでも魔法阻害装置があるため、魔法での攻撃ができなくなる。ということは、襲撃のチャンスは今夜と明日の午前中まで…。明日の午後にはここに来たときと同様、相田家の所有する大型のワンボックスカーに乗って帰ることになるからね。
帰り道、車が襲撃されることで他の友人たちを危険に晒すのは避けたいところだ。早々に身柄を押さえて、拷問で口を割らせるほうが良いのではないかしら?
隊長は『もう後れは取りません』と言っていたけれど、相手は魔女だ。油断はできない。
そして二日目の夜は何事もなく過ぎ去り、三日目の朝を迎えた。
魔法のことを勉強していたときに知ったのだけど、水属性の魔法には『水の矢』や『水の槍』という貫通力の高い攻撃魔法があるそうだ。ただ、これらを使うと、事故死は偽装できなくなる。なりふり構わず使ってくるのか、あくまで事故死を偽装しようとするのか…いったいどうするつもりだろう?
一番良いのは『今回の襲撃は断念して、次の機会を待つ』という判断をしてくれることかな。そうすれば、きっと依頼者とも連絡を取り合うだろうし…。
大切な友人たちを巻き込む恐れがあるこの判断(水の魔女を捕まえず、泳がせておくという判断)は、きっと皆から責められるべきことだろう。でも、依頼者を把握しないと何度でも同じことが繰り返されることになるのだ。どうか許してほしい。心の中で友人たちに謝罪する私だった。
なお、魔法攻撃の兆候を捉えた場合には、魔法発動の前に躊躇なく捕縛せよと命令している。でも大丈夫なのかしら?そんなにうまくいくのかな?




