042 別荘②
「まさかここには来ないとは思うけど、念のため建物の中に入っておこうか」
タケル君の言葉に全員が頷いた。
バイクのエンジン音が徐々に近づいてくる。マイちゃんは不安そうに顔を引きつらせているよ。可哀想に。
僕はマイちゃんに言った。
「大丈夫だよ。もしもやつらが喧嘩を売ってきたら、僕が返り討ちにしてやるからね」
「ツバサお姉ちゃんって強いの?」
「そうだね。この中ではレイコお姉さんと同じくらい強いよ。武術の心得が無い暴走族なんか瞬殺だね」
アイちゃんが驚いたように聞いてきた。
「え?そうなの?お前ら部活はやってなかったよな?柔道か剣道か?いや、女子だから合気道かな?」
僕は正直に答えた。
「空手だよ。琉剛流という琉球空手の一派で、レイコちゃんは師範の娘だし、僕はその弟子だよ」
タケル君が感心したように言った。
「うーん、女子にしては肝が据わってるなぁとは思っていたんだけど、そういうことか」
アヤカちゃんも目を輝かせている。
「レイコちゃんもツバサちゃんもすごいんだね。頼もしいよ」
あと、もしも本当の非常事態になった場合は、僕の魔法が火を噴くよ。あ、火属性の魔女じゃないけど…。まぁ、僕が魔女ってことを皆に明かしたくはないから、本当に最後の手段だけどね。
そんな話をしているうちに、いつの間にか暴走族のバイクのエンジン音が聞こえなくなっていた。
次第に遠ざかっていくのではなく、いきなり音が消えた感じだったのが気になるよ。バイクのエンジンを切ってから、歩いてここに来ようとしているとかじゃ無いだろうな。いや、まさかね。
でも、建物の戸締りだけはしっかりと確認しておくべきかな。
ただ、そんな心配は無用だった。
深夜の敷地内への侵入、もしくは襲撃なんかは特になく、すっきりと穏やかな朝を迎えることができたよ。
さすがに別荘地だけあって、季節は真夏なのに夜はとても涼しく、ぐっすりと快適に眠ることができた。日中は暑くなりそうだけど、朝方はまだ涼しくて気持ち良い。
僕は朝の爽やかな空気を満喫しようと、玄関のドアを開けて外へ出た。
「そう、ご苦労様」
ちょうどレイコちゃんがスマホで誰かと会話していたみたい。ん?身寄りのないレイコちゃんが電話するのって、僕らくらいのはずだけどな。それに『ご苦労様』って目上の人から目下の人へ言うセリフだよね?相手は誰だったんだろ?
「レイコちゃん、おはよう」
「あら、ツバサちゃん、おはよう。早いわね」
「レイコちゃんもね」
いくら大親友とはいえ、あまり詮索するのもマナー違反だろう。僕はレイコちゃんがさっき電話していた件については気にしないことにした。
それよりも今日は近くの湖に行って船遊びをする計画だ。ワクワクするね。




