037 放課後①
一クラスの人数は40人、男女比はおよそ半々だ。女性の三割が魔法技能を持つという統計結果から考えると、このクラスには6人くらいの魔女がいることになる。もちろん僕を含めて…。
魔法技能は10歳以上、20歳未満の任意の時期に発現するらしい。なので、まだ発現していない人もいるかもしれないけどね。
ちなみに僕は転生者なので、前世を思い出した5歳の頃にはすでに魔法が使えていたよ。
基本的に魔女は自分が魔女であることを隠そうとする傾向にあるらしい。まぁ、特別な視線に晒されるのは避けたいという気持ちだろう。僕もだけど…。
したがって魔法を使えると公言しているのは、このクラスでは一人だけだ。
その魔女さん、自己紹介では嵯峨野マイさんと名乗っていたけど、なんと治癒の魔法が使えるらしい。中程度の怪我なら跡形もなく治せると豪語していたよ。実は僕も転生時に悩んだんだよね。『重力』にするか『治癒』にするかを。
結局は『重力』魔法にしたんだけどね。だって攻撃力が欲しかったし…。もうストーカーに殺されるのは嫌だもん。
あと、授業料免除の特待生は僕のクラスにもう一人いた。それが土浦アヤカさんだ。名字からして出席番号順で僕の席のすぐ後ろだから、仲良くしたいところなんだけど…。
その子、お昼休みには自分の席で一人黙々とお弁当を食べていて、食べ終わると文庫本を取り出して一人静かに読んでいる。髪を三つ編みにしていて丸眼鏡をかけた、いかにも文学少女って感じの女の子だ。いつも俯いているから顔をまじまじと見たことは無いけど、多分可愛いはず…。僕の可愛いものセンサーに反応がある。
新学期が始まって一週間、授業の前後にはレイコちゃんとおしゃべりをしたり、お昼休みには僕たちの席のほうへ相田君や佐藤君が雑談しに来たりと楽しく過ごしてるんだけど、土浦さんが他の人と会話しているのを見たことがない。僕も自分の後ろの席だからちょこちょこ話しかけるんだけど、まともに返答されたことがないのだ。
めちゃ内気なのか、他人と関わりたくないのか…。クラスの中で多くのグループが形成されていく中、一人だけ異質な感じになっちゃっている。去年のレイコちゃんもこういう感じだったのかな?
そして今日は金曜日。土日は連休なので、クラスの皆はワクワクしている様子を隠せていない。もちろん僕もそうだよ。精神年齢的には大人でも、休みの前の日に気分が高揚するのは同じだね。
「ねぇ、ツバサちゃん。今日の放課後、どこかへ遊びに行かない?」
レイコちゃんからのお誘いだ。なお、レイコちゃんも僕も部活動には入っていない。いわゆる帰宅部だ。
あと、アルバイトもしていないので、放課後は丸々時間が空いている。
「うん、良いよ。どこに行こうか?」
「お、お前ら、遊びに行くのか?俺たちも護衛として付いていってやろうか?」
相田君が話に割り込んできたよ。てか、護衛って何だよ。魔物退治や薬草採取にでも行くのかよ。
「アイちゃん、普通に『一緒に行きたい』って言えば?…ってことで、僕らも一緒に行きたいんだけど良いかな?」
佐藤君も話に加わってきた。まぁ、僕としては人数が多いほうが楽しいし、レイコちゃんさえ良ければ別に問題ないんだけど。
あと師匠から学んだ技はむやみに披露しないつもりだけど、レイコちゃんも僕も空手の腕前としては有段者だよ。段位は取っていないけどね。逆にアイちゃんを守っちゃうよ。
レイコちゃんが言った。
「そうね。ツバサちゃんが良いのなら私は構わないわよ」
「僕もレイコちゃんが良いなら良いよ」
相田君が感心したように呟いた。
「お前ら、ほんと仲良しだな」
ふふふ、大親友だからね。




