035 新学期
僕のほうの事情もレイコちゃんに説明したあと、最後に言った。
「レイコちゃんとは違う高校になるけど、また仲良くしてね」
すると意外なことを提案された。
「ねぇ、ツバサちゃんもうちの高校に編入しない?ツバサちゃんなら余裕で授業料免除の特待生になれると思うよ」
「え?うーん、なんかお金持ちばかりが通ってるってイメージがあって、ちょっと苦手かな。僕は庶民だから公立高校のほうがお似合いだよ」
レイコちゃんの話では、金の力で入学したような学生もいれば、貧乏人の特待生もいるらしい。特待生は学校自体の偏差値を押し上げて、有名大学への現役合格を喧伝するための広告塔になっている。なので、別に邪険にされているわけではないとのこと。
でも、きっと金持ちの家の学生との間には溝があるよね?僕はそれが嫌なんだよ。
「私、お父さんの事件のせいで中学ではいじめられてたの。高校に入ってからも、いじめられているわけではないけど友達は全くいないわ。だからツバサちゃんがこの街に帰ってくるって聞いて、駅前で待っていたのよ。もしもあまり公立高校に思い入れが無いなら、あなたと同じ高校に通いたいのよ。どうかな?」
こ、これは美少女からの告白ってやつですか?てか、誰から引っ越しのことを聞いたの?いや、それよりも『いじめダメ、絶対』…。
頭がぐるぐる回転して酔いそうだ。
「でも今から編入の願書を出して新学期に間に合うかな?」
「大丈夫。間に合わせるから」
は?あたかもレイコちゃんが学校の権力者であるかのような言い方だな。そんなわけないのに…。
結局、両親とも電話で相談し、私立高校のほうの都合も聞いて、実際に編入試験を受験できることになった。公立高校の編入試験は申し訳ないけどキャンセルさせてもらったよ。ほんと申し訳ない。
私立高校のほうでは学業優秀な学生は喉から手が出るほど欲しいのだそうだ。僕はあとで担任の先生からこっそりと聞かされた、編入試験をほぼ満点で合格したってことを。
二年生の新学期から通い始めるため、クラス替えもある。僕がしれっと混ざっていても特に違和感はない。だから全員の前で自己紹介するような転校生としてのイベントは無かった。
一学年には4クラスもあるため、レイコちゃんと同じクラスになれるかは運次第だったんだけど、どうやら僕らは運が良かったようだ。
あらかじめ出席番号順に席が決められていたため、『高月』は『津慈』の一つ前だった。『高橋』や『近田』、『津川』なんかの名字の学生もこの高校には在籍してるみたいなんだけど、全員他のクラスだったよ。きっと、たまたまだろうな。
僕は前の席のレイコちゃんに話しかけた。
「レイコちゃん、これからよろしくね。お昼も一緒に食べようね」
レイコちゃんは満面の笑顔で頷いたよ。よし、この子の笑顔を守るのは僕だ。そう決心した瞬間だった。
…っと、僕の横に男子が立って話しかけてきた。
「おいおい、小学生が混じってるじゃねぇか。お兄さんが小学校へ連れて行ってあげようか?」
なんかムカつくイケメンだった。僕はイケメンは嫌いだ。前世の僕をナイフで刺し殺したのもイケメンだったからね。いわゆるイケメンアレルギーだ。
「お前の頭のレベルなら小学校がお似合いかもな。一人で小学校へ行けよ」
僕がそう言うと、イケメンは真っ赤な顔になって怒り始めた。てか、精神的な耐性が低くないか?
するとめっちゃ普通の顔面偏差値のやつ、つまり偏差値50から52くらいの男子が喧嘩を仲裁してきた。なんだかラノベの主人公になりそうなやつだな。
「おいおい、アイちゃん。今のはお前が悪いよ。友達になりたかったのなら、もっと普通に話しかければ良いだろ。あ、僕は佐藤、この失礼なやつは相田。君の名前は?」
「僕は津慈だよ。んで、前の席の子が僕の親友の高月さん。この子をいじめたら僕が許さないからね」
んで、話してみると相田君も佐藤君も別に悪いやつじゃなかったよ。相田君、いやアイちゃんのほうはちょっとコミュ障っぽいけど、うまく佐藤君がカバーしてる感じだね。
レイコちゃんも交えて四人で話していると担任の先生がやってきてホームルームが始まった。
これから新しい高校での生活が始まるんだな。さっそく男友達もできたし、なによりレイコちゃんが一緒だ。ワクワクするね。




