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024 加藤ハヤト②

 閉めたはずのドアが細めに開いているのは、副隊長が盗み聞きをしているせいだろう。そう思っていたが、どうやら違っていたようだ。

 ゆっくりと開くドアの気配…。視認していなくても感じることができるのは、忍びの訓練の賜物(たまもの)だ。

 俺は振り返りざま、ナイフを投げた。ただし、気配のする少し上の位置に…。要するに、当てる気は無いのだ。

「ん?おかしいな。人の気配がしたんだが…」


 …っと、俺の左目をターゲットとして発動された魔法の気配を察知した俺は、素早く移動してタゲを(はず)した。

 さらに次々と発動される魔法…。おいおい、まじかよ。気配はあるが、姿は見えない敵からめっちゃ攻撃されてるよ。

「ああ、もう!お兄さん、うざいよ。うざすぎる!」

 女の子の声がしたと思ったら、中学生くらいの子が姿を現した。ん?魔法を使っていたことから判断して、この子は女性だよな。少年にも見えるけど…。

「お嬢ちゃん、気配は感じていたけど、透明化(インビジビリティ)認識阻害(インヒビション)の魔女さんかな?」

 おそらく認識阻害(インヒビション)だろう。あれ?でも、さっき発動していた魔法は攻撃魔法だったような?


 女の子は俺を無視して安西さんに話しかけている。

「こんばんは。あなたの妹さんに頼まれて助けに来たよ」

「え?モエから?あの子は無事なのね?良かった。私のせいであの子まで拉致されたのではないかと心配していたの」

 安西さんも普通に答えているね。というか、俺を無視しないで欲しいんだけどな。

「あー、お嬢ちゃんが何者かはどうでも良いんだけど、安西さんと一緒に死んでもらうことになってしまったよ。良いよね?」

 この俺の発言に対して、すごい勢いで返された。

「良いわけあるか!てか、良いよって答えるやつがいるんかい!いたら自殺志願者だよ」

 うーん、ツッコミ気質だな、この子。ふふふ、ボケをスルーしない相手は好感が持てるね。そう、スルーされたボケほど悲しいものは無いのだ。


 だから思わず本音を漏らしてしまった。

「良いね、その反応。でもさっき俺の顔に何度も魔法で攻撃しようとしたよね?一発も当たらなかったとはいえ、ちょっと傷ついちゃったよ、心が」

 ついでに文句も言っておこう。多分、あの攻撃が当たっていた場合、俺の左目は潰れていたはずだしな。

 女の子は不思議そうに聞いてきた。

「いや、なんで察知できるの?特異体質?」

 転生特典で貰った技能だよ。まぁ、言えないけど…。


「うーん、手の内は明かせないなぁ。だってお嬢ちゃんは俺の敵でしょ?てか、それよりもこの場所って魔法阻害装置(ジャマー)の有効範囲内なんだけど、どうやって魔法を発動してるのか、そのほうが気になるよね」

 そうなのだ。この別荘を中心とした半径100メートルの円内は、魔法阻害装置(ジャマー)によって魔法の発動が阻害されているはずなのだ。この女の子の魔法がなぜ発動できているのか、そっちのほうが不思議だよ。

「ふふふ、それこそ言えないよ。どうも僕の魔法はかわされてしまうみたいだから、魔法無しで戦おうか。お兄さんの体術と僕の空手、どっちが上か勝負だね」

 空手の構えをとる女の子を見て、初段程度の腕前だなと判断した。まぁ、俺の敵じゃないな。


 突然、魔法発動の気配を察知した。先ほどと同じ攻撃だ。

 難なく回避した俺だったが、移動した先のすぐ横に範囲魔法が発動されたのだろう。異常に身体が重くなった。

 俺自身がターゲットになっていない場合、察知できないという欠点を突かれたよ。まぁ、それが通用するかどうかの確証はなかったのかもしれないが…。

「うぐぉ…、なんだ身体が重くなって…。てか、魔法無しって嘘かよ。ま、まぁ、当然か。俺でもそうするしな。うぐっ…」

「どうかな?重力の8倍、8Gの威力は?すぐに脳に血液が届かなくなって、いわゆるブラックアウトすることになるよ。ほら、もう目の前が真っ暗になってきたんじゃない?」

 いや、これはまずい。視界が急速に(せば)まって、暗くなっていくのが分かる。あと、10秒耐えられるかどうか…。

「ぐっ…。な、なんて魔女だ。悪魔かよ」

 声を出すのも億劫(おっくう)だ。くそっ、この新たな人生で初の敗北を喫することになるのか?


 そのとき救世主が現れた。そう、俺を監視していたはずの副隊長だ。てか、遅いよ。早く助けろよ。

 副隊長は女の子のほうを向いてナイフを投げる素振りだったが、投げられたナイフは俺のほうへ飛んできた。おいっ!標的が違うだろがっ!

 ただ、俺にナイフを投げてきた理由には心当たりがある。年齢的にも経験年数的にも下である俺の部下に収まっているのが我慢ならないんだろうな。あの軌道なら俺の額に突き刺さるのは間違いない。そして俺は動けない…。

 ところが、そのナイフはフォークボールよりも急角度で落ちて俺の足元の床に突き刺さった。この高重力に助けられたか。

 女の子は副隊長に向かって魔法を発動したのだろう。やつの右手が紙をくしゃくしゃっと丸めたように収縮した。(こわ)っ!なんて魔法だ。というか、あれを俺の左目に向かって発動していたのかよ。

 まじ、恐ろしい子…。


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