020 帰宅
加藤さんの運転する車の中から美女先輩に電話をかけて、簡単に現状を説明した。僕の自宅アパートに帰り着くのは、かなり遅い時間になりそうだということとかね。
なお、美女先輩、ユカリさん、マユミさんの三人は、安西モエさんの家に泊まることにしたらしい。終電の問題だな。
置きっぱなしの2地点間座標接続装置の回収と、モエさんへの詳しい説明のために明日、いやすでに日付が変わっているから今日だね、夜に訪問することを伝えた。
『つつちゃん、明日、いえ今日の出勤は体調不良ということにして、森課長には私のほうから有休を申請しておきましょうか?』
美女先輩の優しさがありがたい。うーん、朝起きれるかどうか不安だから、そうさせてもらおうかな。
「うん、じゃあそれでお願いします。あ、モエさんは明日も出勤?もしも休みなら、正午過ぎにでもお部屋に伺わせてもらうよ」
『ちょっと待ってて』
向こうでがやがやと会話している気配があって、しばらくすると返答があった。
『モエさんもユカリさんもマユミさんも仕事を休むって。私だけは残念だけど午前中だけ職場に行って、午後から早退するわ。だから、つつちゃんも13時くらいに来てくれれば良いからね』
だったら、帰ってから十分な睡眠時間がとれそうだ。あと、美女先輩も午後から合流できるってことだね。
電話を切った僕に運転中の加藤さんが話しかけてきた。
「ツバサちゃんって探偵事務所の人なのかい?今の電話相手って上司か先輩かな?」
「僕は普通の会社員だよ。ハツミさんを助けに行ったのは妹さんからの依頼だけど、あくまでも無償奉仕だから」
「いやいや、無償奉仕で命を懸けるのはどうかと思うぞ。天に宝を積むのは良いことだけど、正当な報酬は受け取るべきだと思うがな」
ん?加藤さんってキリスト教徒かな?『天に宝を積む』という表現は、たしかマタイの福音書だったような…。
ま、どうでも良いか。
「ねぇ、加藤さん。今日の午後って時間ある?もう一度会えないかな?」
「お、デートのお誘いか?うーん、俺ってロリコンじゃないんだけどな」
「デートじゃない!てか、誰がロリか!殺すよ」
美女先輩の読心魔法で加藤さんの本音を把握しておきたいだけなんだよね。もしかしたら読心魔法すら通用しない可能性もあるけど…。
「まぁまぁ軽い冗談だから。そうだな、何気に忙しいんだが、なんとか時間を作るとしよう。君との縁は繋いでおきたいしな」
僕も同感だよ。てか、敵だったはずなんだけど、少年漫画の好敵手的な位置づけで、将来的には共通の敵に対して共闘とかしそうだよね。別にフラグじゃないけど。
なお、加藤さんには僕のアパートの前まで送ってもらった。まぁ、敵に自宅を知られるってのはどうなの?…って思わなくもなかったんだけどね。一応、その程度は信用したってことかな。いや、甘いかな?
「明日の午後も車で迎えに来てやるよ。なんか娘の送迎をする父親みたいだな。あ、ちゃんと戸締りして寝ろよ」
「ありがとう。てか、誰が娘か。加藤さんって娘さんがいるの?」
「いや、バツ無しの独身だぞ。というか、彼女すらいねぇよ。こんな仕事じゃなけりゃ、小さな子供の一人や二人はいてもおかしくないんだがなぁ」
「あ、なんかゴメン。僕で良ければ、娘の役をやってあげても良いよ」
「余計なお世話だ。くだらないこと言ってないで、早く寝ろ。じゃあ、また明日な」
「うん、おやすみ~」
加藤さんとは歳の差がかなりあるけど、昔からの友人同士みたいに気軽に話せる間柄になっちゃったよ。はっ、待てよ。これも忍びの技術の一つかもしれないな。話術で敵を信用させるなんて、忍者だったらできそうだものね。忍者かどうかは知らんけど。




