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019 結末

 安西モエさんの部屋で待つ美女先輩にスマホで電話をかけた僕は、事情を簡単に説明した。

 ハツミさんの救出はできたけど、敵の提案で死んだことに偽装するってことね。あと、2地点間座標接続装置(ゲート)が使えなくなったこと。

 こんな山奥まで携帯の電波が届いているなんて、さすがは日本の携帯電話会社だ。


 建物の1階で縛り上げられている見張りの男たちはそのままに、お兄さんとハツミさん、そして僕の三人は裏の車庫にあった車に乗って(ふもと)の街へと移動した。目的地はお兄さんが個人的に所有している隠れ家の一つだそうだ。

 なお、お兄さんは加藤と名乗っていた。偽名かもしれないけど…。美女先輩がいれば、偽名かどうかは読心魔法で判断できたんだけどね。

 ちなみに、僕の名前はツバサとだけ伝えている。名前だけなら本名を明かしても大丈夫だろう…多分。


「加藤さんって裏仕事専門の人?御前(ごぜん)様の直属の部下なの?」

 車を運転しているお兄さんに聞いてみた。暇なので…。あ、僕は助手席、ハツミさんは後部座席に座っているよ。さすがに僕を後ろに乗せるのは危険だと判断したみたい。

「執事という表の仕事もしているぞ。まぁ、屋敷内の序列は第三位だが」

「おぉ、たしかに執事っぽい。てか、歳はいくつなの?僕の見たところ、25歳くらいかな?」

「いや、もう31になるな。今年の誕生日が来たら32だよ。いい加減、裏の仕事は引退して、身を固めたいところなんだが…」

 ええ?おっさんじゃん。驚いたなぁ、めっちゃ若く見える。

「それよりお嬢ちゃん、ツバサちゃんは中学生かい?」

「誰が中学生かっ!こう見えても21歳、今年22歳になるってーの」

「はぁぁぁ?合法ロリかよ。驚いたな」

 なんだか可哀想なものを見るような目で見られた。特に胸のあたりを…。

「おっさん、殺すぞ。胸を見んなや。てか、脇見運転するな!」

 ハツミさんがクスクス笑いながら僕たちの会話を聞いている。喜んでもらえてなによりです。


 小一時間ほど走った車は、とあるマンションの地下駐車場に滑り込んだ。

 ハツミさんと僕は加藤さんの案内で3階の一室に入り、一息つくことができたよ。

「信じてもらえないかもしれないが、実は最初からここに(かくま)うつもりで一か月かけて準備を整えていた。なので、必要物資や食料は揃っているはずだ。もしも足りないものがあれば、このスマホで連絡してくれ。俺の携帯番号のみを登録しているからな。ただ、俺以外、例えば妹さんに電話することや、外を出歩くことはしばらくの間は避けて欲しい」

 そう言いながら、加藤さんは一台のスマホをハツミさんに手渡した。

「崖から転落させて事故死って筋書きじゃなかったの?」

 僕の質問に加藤さんは苦笑しながら答えてくれた。

「俺にも監視が付いていてな。ほら、ツバサちゃんが右手を潰したあいつだよ。やつの手前、めったなことは言えなくてな」

「加藤さんは御前(ごぜん)様を裏切る形になっちゃって大丈夫なの?」

「心配してくれてありがとな。でも大丈夫だ。ツバサちゃんには負けたけど、そこらにいる男や普通の魔女さんに負けるつもりはないぞ」

 あぁ確かに、よく分からない特殊な技能を持っているよね。魔法の発動を察知して『タゲを切る』なんて普通できないよ。


 ハツミさんが加藤さんのほうを向いて言った。

「ありがとうと言うのも変な話だけど、この件の担当者があなたで良かったわ。ツバサちゃんもありがとう。感謝します」

「いや結局のところ、僕は()らなかったみたいだけどね。まぁ、加藤さんが本当のことを言ってるのかは分からないけど」

 そう、僕がいなかったらハツミさんを殺していたという可能性はあったのだ。

「俺は今まで人殺しだけは避けてきたからな。ツバサちゃんが見えない状態のときにナイフを投げた際も、あえて頭上に(はず)したんだぜ。これも信じてもらえないかもしれないが」

 認識阻害がまだ有効な状態で、監禁場所である地下室のドアを開けて部屋の中に入ったときか。背が低いから助かったと思っていたけど、まさかわざと外したっての?

「あのときって、なんで分かったの?認識阻害は働いていたはずだけど」

「人の気配なんて、そうそう消せるもんじゃないからな。まぁあまり手の内をさらけ出したくはないから、この話はこれでおしまいだ。とにかく、この事態を一週間ほどで片付けるから、しばらくはここで待機していてくれ。あ、ツバサちゃんはどうする?都内に戻るなら車で送るが…」

 うーん、ハツミさんは心配だけど、僕も会社があるからなぁ。てか、すでに終電を逃しているから公共交通機関では帰れないよ。


 悩んでいる僕にハツミさんが言った。

「私は大丈夫。ここまできたら、この人を信用するしかないからね。ツバサちゃんはモエに、私の妹に事情を説明してもらえるかしら。頼りっぱなしで悪いのだけど」

「それくらいお安い御用だよ。うん、そうだね、僕は家に帰るよ。加藤さん、送ってくれる?」

「おお、ここからなら都内まで車で2時間ってところだな。住所さえ教えてもらえれば、あとは助手席で寝てても良いぞ」

「敵の隣で寝れるわけないじゃん。馬鹿なの?殺すよ」

「口が悪い…」

 加藤さんは苦笑しているけど、気を悪くした様子はない。寛大な人だ。

 いや待てよ、『口の悪い子供』って思われているのかな?それはそれで失礼な話だ。


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