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018 偽装

「ねえ、お兄さん。さっきのおっさんは誰?仲間かと思ったら、お兄さんに向かってナイフを投げたよね?」

「はぁはぁ、ちょっと息を整えるまで待ってくれ。ふー、もう良いぞ。さっきのやつは俺の部下で、かつ先輩だ」

 復活、(はや)っ。やっぱ油断できない男だな。てか、質問には答えてくれるんだね。

「ああ、なんとなく関係性が分かっちゃったよ。お兄さんが邪魔なんだね?」

「まぁ、そういうことだろうな。お嬢ちゃんの魔法で身動きが取れなくなっていた俺は恰好の獲物だったわけだ。まさに殺すには大チャンスだったからな」

「あの人、大丈夫なの?上司を殺そうとするなんて…」

「やつの言い分は予想できる。俺が捕虜になりそうだったから、やむなく口封じをすることにした…って感じだな」

 なるほどね。でも、あの人のナイフを投げた先が僕だったらと思うと、ぞっとするよ。うん、おっさんには感謝だね。てか、右手を潰しちゃって申し訳ない。


「それよりも俺をどうする気だ?殺すか?それとも警察に突き出すか?もはや俺には抵抗する気力は無いぞ」

 うーん、本来なら警察沙汰にすべきだろうけど、お兄さんの言っていた御前(ごぜん)様ってのが気になるところだ。警察機構に影響を及ぼせるような上級国民がからんでいる場合、警察に訴え出ても逆にこっちが冤罪をかけられかねないよね。でも、殺すって選択肢はさすがに無いよ。

「お姉さん、ハツミさんはどうしたい?このお兄さんに復讐したいほど酷い扱いをされたのなら、僕も復讐を手伝うよ」

 拉致被害者である安西ハツミさんに聞いてみた。

「いえ、一か月間お風呂に入れなかったこと以外は全く不満は無かったわ。この人にはお姫様扱いしかされていないもの」

 あぁ、良かった。お兄さんは紳士的な人だったようだ。イケメンは心までイケメンだったか。あれ?でもハツミさんを殺そうとしていたのも確かなんだよな。きっと任務に忠実なんだろうな。

「なぁ、一つ俺からも提案させてくれないか」

「何?提案って」

 お兄さんの提案ってやつを一応聞いてみよう。


「安西さんを事故死させる。それでこの件は幕引きだ」

「はぁ?馬鹿なの?そんなこと、この僕が許すとでも?」

「いやいや、もちろん事故死したことにするだけで、実際に死ぬわけじゃない。偽装だよ、偽装。そうでもしないと、ずっと命を狙われ続けることになるからな」

 ハツミさんは微妙な表情になっている。そりゃそうだ。死んだことにするってことは、企業の不正を告発することもできなくなるし、戸籍上も死亡になるってことは今後『安西ハツミ』として生きることができなくなるわけだから。

「身代わりの死体や新しい戸籍は俺が用意する。幸い、こちらの陣営で安西さんの顔を知っているのは俺だけだ。整形までは不要だろう。ただ、内部告発は諦めてもらうしかないがな。あと、仕事も失うことになるが…」

 やはり警察にも顔が()くってことか…。僕としては、良い落としどころかな…とも思う。ハツミさん自身は嫌だろうけどね。


 (うつむ)いてしばらくの間考えていたハツミさんが顔を上げて言った。

「分かったわ。その提案を呑みましょう。不正の糾弾は重要だけど、それ以上に私の周りの人に迷惑はかけられない。妹のモエやこのお嬢さんを巻き込んでまで意地を通し続けるのは、やはりちょっと間違っていると思うの。不正の告発については、また何か別の方法を考えましょう」

「いや、それでも不正告発を諦めないのはちょっと尊敬するよ。じゃあ、三人でお互いに連絡先を交換するとしよう。お嬢ちゃんも良いよな?」

 ハツミさんがそれで良いのなら、僕に異存は無い。一生、ハツミさんの護衛を続けることもできないしね。


 でもこれだけは聞いておきたい。

「ねぇ、お嬢様や御前(ごぜん)様って誰なの?」

「はっはっは、それはさすがに言えないな。多分、お嬢ちゃんも分かっているとは思うが、いわゆる上級国民ってやつさ。まぁ、知らないほうが身のためだな」

 なんか巨悪の臭いがする。僕は正義の味方を気取っているけど、さすがにあまり関わりたくない人たちかも…。


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