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016 地下

 ゲートを抜けたあと、近くの立木の枝にハンカチを結び付けて目印にした。帰るときに迷わないようにね。

 あとは山登りだな。100メートル以上離れた位置だから結構大変だけど、戻るときは下りになるから逃げやすいと思う。

 懐中電灯は持っているけど点灯するわけにもいかず、真っ暗闇の中を月明りを頼りに登り続けること10分。ようやくうっすらと建物が見えてきた。

 建物の玄関口にあたるところに椅子に座っている人間の姿が見える。見張りかな?

 僕の靴はスニーカーだけど、山の中で足音を消すことは難しい。枯れ枝を踏んだり、地面を踏みしめる音はどうしても消せないからね。仕方なく四つん這いになって、山にいる獣(狸とか…)に偽装しながら近づいていった。いくら認識阻害で姿が見えなくても、二足歩行の音がしたら警戒されちゃうからね。


 ところがその心配は杞憂(きゆう)だったよ。寝てるじゃん、こいつ。

 僕は椅子に座ったままの状態の男をロープでぐるぐる巻きにした。あと、猿轡(さるぐつわ)も…。さすがにこれで目が覚めたのか、見張りの男は暴れ始めたけど鳩尾(みぞおち)を殴って気絶させた。

 男の(ふところ)(あさ)ると鍵束(かぎたば)が出てきたので、ちょっとお借りした。いや、借りただけだよ。承諾は貰ってないけど…。

 玄関のドアノブをゆっくりと回してみると、鍵はかかっていなかった。あっさりとドアが開いたよ。

 足音を立てないように忍び足で家の中に侵入し、建物の間取りと見張りの人員配置を把握していく。1階のみの平屋でそこまで大きな建物じゃないから、すぐに確認を終えることができた。

 建物の中央にあるリビングダイニングとは別に四つの部屋があって、そのうちの二つの部屋に一人ずつ男が寝ていた。でもハツミさんが見当たらない。

 ユカリさんの透視が失敗して、見当違いの場所を指示したってことは考えられない。きっと、この家のどこかにいるはずだ。

 屋根裏か地下室かな?

 おっと、その前に寝ている二人の男たちを縛り上げておくかな。まず足首をロープで縛り、次に手首を縛ったあと猿轡(さるぐつわ)をかませた。この作業を二人分やって、ようやく一息ついたよ。

 他にも見張りがいるのかな?うーん、分からん。


 とにかく時間も無いし、ハツミさんを探そう。

 建物の中には月明りも届かず、かなり暗いので、屋根裏へ上がる階段も地下室へ降りる階段もなかなか見つけられない。

 …っと、何かに(つまず)いた。思わず声を上げそうになっちゃったよ。あっぶねぇ。

 地下室へ降りるハッチの取っ手部分のようで、迷わず上へと引き上げた。そこには幅の狭い階段があり、下には明かりが(とも)されていた。

 ゆっくりと音を立てないように階段を降りるとそこは廊下で、その突き当りにドアがあった。見張りはいないようだ。

 僕はドアの前まで近づくと、中の様子を(うかが)った。何かぼそぼそと話し声がする。一人は男性で、もう一人は女性だな。


 僕はゆっくりとドアを細めに開けた。すると、はっきりとした声が聞こえてきた。

「この一か月間で書類上の証拠隠滅と製品の闇回収はなんとか完了した。これで君を解放しても問題は無くなったよ。もはや君が何を主張しようが、証拠が何も残っていない以上、無駄になるだけだ。どうする?警察やマスコミに訴えるかね?」

魔法阻害装置(ジャマー)に関しての不正は絶対に見逃せない。信じてもらえなくても世間に訴え出るわ」

「それは困るな。証拠は無くても風評被害というものは生じる。せっかく解放してあげようと思ったのに、それを棒に振るつもりかい?」

 うーん、この短い会話だけで、ほとんどの事情が理解できちゃったよ。はなはだ説明的ではありますが…って感じかな。

 要するに、ハツミさんの勤めている会社は魔法阻害装置(ジャマー)を作っていて、動作検証の結果を偽装したとか、そんなことがあったのだろう。証拠隠滅まで身柄を押さえていたけど、そろそろ解放しても良い時期になったわけだ。

 このまま解放されるのなら、僕が来ることは無かったのかも…。


「ただなぁ、この件に関しては、実はお嬢様がお怒りでなぁ。御前(ごぜん)様も孫娘のご機嫌をとるために、君をこの世から消し去る決定を下されたってわけだ。上げて落とすのは申し訳ないが、君にはここで死んでもらわないといけなくなったよ。いや、俺としても非常に不本意ではあるが、宮仕えの身としては仕方ない。恨まないでくれよ」

 あれ?なんだか不穏な感じになってきたぞ。どうしよう。

 僕が頭を悩ませている間に事態はどんどん進行していく。

「では登山中に遭難して、一か月ほど山中を彷徨(さまよ)ったが、うっかり崖から転落して死亡したという筋書きで君には死んでもらうから、一緒に来てくれたまえ」

 死んでもらうから一緒に来いって言われても困るよね。ほら、ハツミさんも微妙な表情になってるよ。


 僕は細めに開けていたドアを身体が通れるくらいに開けて、部屋の中へ入った。

 と、突然、男が身体をひねって右手でナイフを投げてきた。僕の頭の上すれすれにナイフが飛んできて、背後の壁に突き刺さった。あっぶねぇ!身長が低くて良かった。てか、認識阻害が働いているはずなのに、どんだけ勘が良いんだよ。

「ん?おかしいな。人の気配がしたんだが…」

 気配だけでナイフを投げんなよ。怖いよ。

 なお、部屋の中は案外きれいで、人が生活するには十分な広さと調度品があった。うん、監禁じゃなく、軟禁状態だったんだな。酷い目にあってるわけじゃなくて良かった。いや、軟禁でも酷い扱いであることには違いないけど…。


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