015 移動
安西ハツミさんの写真と地図アプリを見比べながら、ユカリさんが透視魔法で正確な座標を割り出した。
「ここね。間違いないわ」
ユカリさんが太鼓判を押してくれたので、銀行のときと同様、マユミさんに認識阻害をかけてもらった僕だった。これで準備万端だ。美女先輩やユカリさんは慣れたものだけど、安西モエさんは驚いたようにきょろきょろと辺りを見回しているよ。目で見えているのに脳が認識できないんだからすごいよね。
僕は正確な座標を2地点間座標接続装置の入出力インタフェースに入力してから、ドアを開けようとした。あれ?開かない…。
ドアが開かない理由は色々あって、だからこそ既存の交通手段(鉄道や自動車、飛行機や船等)が無くならない原因でもあるんだけど、それは以下のものが考えられる。
・設定した座標には魔法阻害装置が働いている
・設定した座標にネズミ以上の大きさの生物が存在する
・設定した座標に建物の壁等の構造物が存在する
・設定した座標が水中である
・2地点間の気圧差または気温差が大き過ぎる
2地点間の高度差にかかわらず、必ず『地表』にゲートが開かれるようになっている。つまり、銀行の地下金庫やスカイツリーの展望台にゲートを開くことはできないよ。まぁ、そもそもそういう所には魔法阻害装置が稼働してるけど。
あと、エベレストの山頂にゲートを開くことはできないし、マリアナ海溝の海底に開くこともできないね。てか、開けちゃったら大変なことになるし…。
僕は少し座標を修正してから、もう一度試してみた。ふむ、ダメだね。
考えられるのは、魔法阻害装置かな?山の中の別荘みたいなところだったから気圧差や気温差もあるだろうけど、差が『大き過ぎる』ってことは無いはずだ。
「ダメだ。ドアが開かないよ」
一人で考えていても解決策を思いつかないし、僕は言葉を発した。認識阻害の効果が失われ、全員の目の前に僕の姿が現れた。
「どうしたの?つつちゃん」
「この座標にはゲートを開くことができないみたいなんだよ」
美女先輩の質問には即座に答えたけど、どうすれば良いのかは分からない。
以前、廃工場のそばにあっさりとゲートを開くことができたのは、あの一帯が魔法阻害装置の有効範囲からはずれていたせいだね。なにしろ、誘拐犯のボスが火属性の魔女だったし…。
「うーん、おそらく魔法阻害装置でしょうね。あれってどのくらいの有効範囲があるのかしら?」
実は魔法阻害装置の仕様って国家機密で、一般には明かされていないんだよね。
ここで意外な人から情報が出てきた。そう、安西モエさんだ。
「姉の会社が魔法阻害装置を製造しているらしいんですけど、その有効範囲は小型のもので半径約20メートル、大型のものになると半径100メートルくらいって言っていました」
「だったら軟禁されている別荘を中心に半径100メートルのエリアが魔法阻害装置の有効範囲と仮定して、その外側に座標を設定すれば良いんじゃない?かなりの山奥みたいだから、さすがにそんな広範囲には設置していないでしょう。電源の問題もあるし…」
マユミさんの提案に従って、山の少し麓側に座標を設定してから試してみた。おっと、ドアが開いたよ。
ドアの先は山の中で真っ暗闇なんだけど、向こう側は気圧が低いのだろう、部屋の空気が吸いだされるような空気の流れを感じたけど、すぐに空気の流れは止まった。自動的に空気の流れを制限する機構が働いているんだよ。気圧差が大き過ぎるとこの機構がうまく働かないので、安全のためドアが開かないって仕組みだね。
おっと、部屋の照明を消さないと…。向こう側に光が漏れて目立ってしまう。
「マユミさん、申し訳ないけどもう一度認識阻害をお願い。あと、僕が向こうに行ったあとは2地点間座標接続装置のドアは閉めておいてね。開きっぱなしは危険だから…。そうだなぁ、2時間後くらいにドアを開いてもらえると助かるよ。向こう側からは開けないし…。ちなみに、『重力範囲』の効果は12時間くらいは余裕で持続するからね」
美女先輩が呆れたように言った。
「12時間って…。どれだけ規格外なのよ。まぁ、良いわ。それじゃあ、時計を合わせましょう。つつちゃんの腕時計で23時ちょうどに、もう一度ドアを開けることにします。全員、それで良いかしら?あと、つつちゃん。決して無理はしないこと。今回は救出ではなく、偵察だけでも御の字だと思っておきなさいね。もちろん、チャンスがあれば救出しても良いんだけど」
「了解です。んじゃ、ちょっくら行ってきます」
再び認識阻害をかけてもらってから、僕はゲートをくぐった。さあ、作戦開始だ。




