014 準備
待ち合わせ場所であるファミレスには19時半過ぎに着き、ウェイトレスさんに待ち合わせであることを伝えると、奥のほうの席へ案内された。すでに美女先輩、ユカリさん、マユミさんが席について待っていた。
まずは僕が皆に安西さんを紹介するとともに、安西さんにも皆を紹介した。
「この方が依頼人の安西さんだよ。んで、ここにいるのが尾錠サヤカ先輩、有村ユカリさん、江藤マユミさん。僕を含めて困りごと解決チームを結成してるんだ。もちろん、無償奉仕だから安心してね」
「安西モエと申します。本日は私のためにお集まりいただいたとのことで大変恐縮です。どうかよろしくお願い申し上げます」
「私はこのチームのリーダーを務める尾錠です。まずは食事をしながらで良いかしら?」
着席した安西さんと僕の前にメニューが置かれた。先に来ていた三人はすでに注文するものを決めているみたい。
ウェイトレスさんを呼んでオーダーを通したあと、さっそく本題に入ることにした。美女先輩が僕に目配せをしたので、『重力範囲』を1Gで発動して、魔法阻害装置の影響をキャンセルした。美女先輩の読心魔法とユカリさんの透視魔法を発動できるようにね。
「ことの発端は一か月前になります。姉とは住まいは別ですが、電話ではよく話をします。その会話の中で姉が気になることを言っていて、その翌日には行方が分からなくなりました。警察にも相談したのですが、本気で探してくれるような雰囲気ではなく、単なる失踪者としての扱いになっているようです」
「その気になることって何?」
「姉はかなりの大企業に勤めているのですが、不正の隠蔽とか内部告発とかそういう内容を話していました。ただ、『詳細は話せない、あなたにも危険が及ぶかもしれない』と言われて…」
うーむ、やばい雰囲気が漂ってるね。
ここでユカリさんが発言した。
「あなたのお姉さんの写真を見せて欲しいのだけど…」
安西さんは自分のスマホを操作して、写真アルバムを表示してから一枚の画像を選択し、それを拡大した。姉妹揃って美人さんだな。
「これが私の姉です。名前は安西ハツミ。年齢は27歳です。住所は…」
「あ、それだけで十分よ。ちょっと視てみるわね」
ユカリさんが透視魔法を発動したのだろう。僕たちはそれを固唾を呑んで見守っている。
「分かったわ…。お姉さんは、ハツミさんは生きてます。ただ、監禁?軟禁?山奥の別荘みたいな所に囚われているみたいね。危害は加えられていないわ」
それを聞いた安西さんの目に涙があふれだした。
「ああ、良かった。本当に良かった。あ、でもどうやって助け出せば…」
僕は胸を張って言った。
「僕が行くよ。場所さえ分かれば、2地点間座標接続装置ですぐだからね。あ、でも2地点間座標接続装置をどこに出そう?緊急じゃなければ僕のアパートから向かうんだけど」
「でしたら、皆さん私のマンションに来ていただけませんか?ここからすぐ近くなんです。あ、でも私の部屋は魔法阻害装置の有効範囲でした。うーん、どうすれば?」
「魔法阻害装置のことは気にしなくて良いよ。安西さんさえ良ければ、お部屋に2地点間座標接続装置を設置させてもらいたんだけど、良いかな?」
「あ、でも津慈さんのお宅から2地点間座標接続装置を運ぶのは大変ですよね?」
「うん?常に持ち歩いているから大丈夫だよ」
…っと、隣に座っている美女先輩がいきなり僕の頭に拳骨を落としてきた。痛っ!
「もう、つつちゃん。そういうことをペラペラしゃべらないの。まぁ、安西さんは信用できる人だから問題ないけどね」
あ、無限倉庫の技能もかなり珍しいもので、その保有者はほとんどいないんだった。でも、心を読める美女先輩が『信用できる』と言えば、その人は絶対に信用できるから安心だね。
その後、食事をそそくさと済ませ、五人で安西さんのマンションへ向かった。家賃が高そうなマンションだったよ。僕のボロアパートとは大違いだ。
「汚い所ですがどうぞお入りください」
いや、全然汚くないよ。掃除が行き届いているし、部屋も広い。2LDKってところかな。絶対、高いよね、家賃。
「ここは両親が購入したマンションの一室なので、家賃がかからないんですよ。姉ならともかく、私には分不相応なんですけどね」
僕はリビングルームの中央付近に立って安西さんに問いかけた。
「ここに設置しても良いですか?」
了解をもらった僕は、無限倉庫から2地点間座標接続装置を取り出した。安西さんは目を丸くして驚いている。ちなみに、無限倉庫は魔法じゃないから、魔法阻害装置の影響はないよ。
「え?まさか無限倉庫?す、すごい…」
そして2地点間座標接続装置を中心に半径2メートルの範囲で『重力範囲』を発動した。魔法阻害装置の影響を消すためだね。
「2地点間座標接続装置から2メートル以内だったら魔法が使えるから、ユカリさん、正確な座標を教えてください。それからマユミさん、あとで僕に認識阻害をかけてね」
手順としては、先週の銀行のときと同じだね。




