130 暗殺未遂事件の後日談②
僕が幻術の危険性について考察していたのは、最近起こった事件の中に奇妙なものがあったからだ。
テレビニュースや新聞では概要しか報じられていなかったんだけど、複数の外国人が交番の前でいきなり服を脱ぎだしたという事件だ。
下着まで脱ぎかけて全裸になろうとした男性を交番にいた警察官が制止するという変な事件…。
テレビのワイドショーで詳細な部分まで掘り下げていたんだけど、この男たちが主張していたのは『風呂場で服を脱いで何が悪い?』だったそうだ。これを外国語で喚いていたそうだけど…。
まさに幻術にかけられていたっぽい。犯人が七宝氏なのかどうかは分からないけど…。
ちなみに、この男たちは(どこの国なのかは報道されなかったけど)母国へと強制送還されたらしい。
そして、とある休日、僕は加藤さんに呼び出されて、九条家のお屋敷へと連れていかれた。
広い会議室みたいなところには以下のメンバーが揃っていた。
・高月レイコ(僕の大親友)
・九条アスミ(偽名は三条アスカで、僕の友達かつ会社の同僚)
・九条レイカ(敵の親玉)
・七宝コウジン(敵である幻術士)
・加藤ハヤト(コードネームはハヤブサ)
・そしてこの僕、津慈ツバサ
味方と敵が勢揃いだよ。何の集まりだよ、これ…。
レイコちゃんの司会で話し合い(?)が始まった。
「七宝さんの提案で関係者全員に集まってもらったの。では七宝さん、お話を始めてください」
七宝氏が立ち上がって話し始めた。それは驚くべき内容だった。
「まずは高月レイコ様、九条アスミ様、津慈ツバサ君、この三人の命を狙った件について、皆様に謝罪申し上げます。指示を出したのは九条レイカ様でございます」
レイカさんが何を言いだすのかって顔で七宝氏を睨みつけてから、焦りながら発言した。
「嘘よ!私は知らないわ。この男が勝手にやったことでしょう?」
ここで三条さんが追い打ちをかけた。
「私はレイカさんと共謀して高月レイコさんを山へと誘い出し、登山中に殺そうとしたことを証言します。実はレイカさんの仲間になったフリをしていただけなんですけどね」
「え?どういうこと?あなたはこの女に恨みを持っていたのではなくて?」
「恨みではなく感謝の念しか持っていませんよ。私のことを見誤りましたね」
レイカさんが絶望の表情に変わった。仲間だと思っていた七宝氏や三条さんに裏切られた形だからね。ちょっと同情する。
七宝氏の話が続いた。
「私が九条レイカ様に近づいたのは、ある依頼を受けたためでございます。それは九条財閥の解体、骨肉の争いによる九条家の内部分裂、次代、次々代を担う人材の殺害などです」
「依頼者は誰だ?」
七宝氏は加藤さんのこの質問にははっきりと答えなかった。プロの矜持かな?
「それはお答えできません。外国勢力の一部とだけお伝えしておきます。なお、私が依頼者を裏切った理由ですが、あちらのほうが先に私を殺害しようと工作員を送り込んできたためでございます。どうやら今回の暗殺失敗を受けて、実行犯つまり私の口封じを図ったようですね」
「あ、もしかして猥褻物陳列罪で捕まって世間を騒がせた外国人の男たちって…」
「くっくっく、津慈ツバサ君のおっしゃる通りでございます。あの男たちはとある外国の非合法工作員で、殺さずに済ませたのは私の温情でございます」
うーん、なるほどねぇ。
あれ?七宝氏が僕たちに真相を打ち明ける気になったのは何故だ?
レイコちゃんが七宝氏に質問した。
「それであなたが真相を自白しようと思った理由は何かしら?もしかして、レイカさん個人ではなく、九条家隠密部隊の一員としての就職を希望するとか?」
「さすがは高月レイコ様、その通りでございます。私、七宝コウジン、幻術士としてお役に立たせていただきます。要するに、外国勢力との戦いに九条家自体を巻き込もうかと…」
「正直ね。その外国勢力には九条家に敵対したことを後悔させてあげなければいけないのだけれど、七宝さんにはその尖兵としての活躍を期待しても良いのかしら?」
「もちろんでございます。私には九条家のバックアップが、九条家には私という戦力が加わることで、お互いにWin-Winの関係となるのではないでしょうか」
そうか、さすがに個人で外国(どこの国かは分からないけど)の工作員と戦うのは大変だから、九条家に支援してもらいたいってことだね。
うん、良いんじゃないかな?でも本当に七宝氏を信用しても良いのかな?一抹の不安が残るよね。
さらなるどんでん返し…。




