129 暗殺未遂事件の後日談①
「さてそれじゃ俺はこいつを屋敷へ連行していくが、ツバサちゃんたちはどうする?」
加藤さんの質問に答えたのはレイコちゃんだった。
「せっかくだから三人で山頂まで登りましょうよ。天気も良いし、もったいないわ」
「うん、良いね。三条さんは大丈夫?」
僕の問い掛けに三条さんも頷いてくれた。
「えぇ、もちろんよ。それにしても、こんな風に三人で行動できるようになるなんて、本当に感無量だわ」
三条さんのこの発言を聞いて、三人で顔を見合わせて笑いあった。うん、恐怖に震えていた三条さんもどうやら落ち着いたようだね。
その後、加藤さんとは別行動になったわけだけど、七宝氏は拘束しているし、おそらく問題無いだろう。レイコちゃんや三条さんの護衛の人たちもいるはずだし…。
てか、今回の騒動でその護衛部隊の人たちはどこにいたのか?…っていうと、七宝氏の幻影で偽のレイコちゃんや三条さんを追いかけていたらしい。つまり、まったく違う場所にいたってさ。…って、使えねぇ…。
加藤さんの話では、(姿は見えないけど)現在は僕たちのところに戻ってきているとのこと。なんかあまり当てにならない感じだけど、いないよりはマシか…。
あと、七宝氏の処遇だけど、このあと九条家の屋敷で尋問されることになる。今回の暗殺計画が九条レイカさんの命令であることを証言してもらわないとね。
読心魔法を使える魔女がいれば尋問も楽だろう。九条家の魔女部隊と呼ばれる部隊の中にはその使い手もいるらしいよ。まぁ、いなかったら美女先輩の出番となるわけだけど…。
三人で登山を楽しんだことは割愛するとして、ここからは後日談。
すっかり事件は解決した気になっていた僕たちだけど、事はそう簡単には収まらなかった。
とりあえず七宝氏には目隠しだけはしたそうだ(それで幻術の発動を防げるのかは不明だけど)。
で、尋問の際、驚愕の事実が判明した。
なんと、この男、七宝氏であると思い込んでいた(暗示にかけられていた)全くの別人だったのだ。どこかのホームレスを拉致してきて、七宝氏のフリをさせていたらしい。
なぜ偽物が幻術を展開できたのかって?
本物の七宝氏が遠隔操作で幻術を発動したらしいんだけど、どうやらこのホームレス氏が持たされていた呪物が中継器としての役割を果たしていたとのこと(推測だけど)。
マジかよ…。
あっさりと加藤さんに捕まった理由って、この男が偽物だったからか…。
結局、この偽物を尋問しても九条レイカさんとの繋がりについての証言は得られず、(本物の)七宝氏を召喚して取り調べを行ったんだけど、事件への関与については否定されたそうだ。そりゃ否定するよな。証拠も無いんだし…。
しかも読心魔法を使って調べても無実だったそうだ。これに関しては『強力な自己暗示をかけたんだろう』という見解が加藤さんから出されたらしい。
九条レイカさんを直接取り調べることができれば、おそらく真実は判明するだろうって話なんだけど、さすがにそれは無理っぽい。うん、お嬢様を尋問なんてできないよね。
あと、レイカさんは必ず魔法阻害装置の影響下で活動しているから、こっそりと読心魔法を使うこともできない。てか、三条さんのおかげでレイカさんが黒幕だってことは確定しているんだから、調べるまでも無いんだけど…。
要するに、断罪するだけの証拠が無いんだよ。
それに七宝氏の目的が分からないってのが何とも不気味だ。レイカさんへの単なる忠誠心とは到底思えないんだよね(譜代の家臣ってわけじゃないので)。
「ねぇ加藤さん、七宝氏にしてやられた感想は?」
僕の問い掛けに加藤さんがめっちゃ嫌ぁ~な顔をした。
「あの場には七宝の野郎はいなかった。だから捕まえることはできなかった。それだけだ」
「要は、七宝氏のほうが一枚上手だったってことで良いのかな?」
「黙秘権を行使する」
ニヤニヤしながらチクチクと責め立てる僕に、憮然とした顔つきの加藤さん…。
今は二人っきりで加藤さんの車の中なのだ。いつものドライブデートだね。
それにしても七宝氏の幻術は強力過ぎる。
幻術があれば事故死の偽装なんかより、社会的に抹殺することなんかが簡単にできるよね。
例えば、風呂場の脱衣所で服を脱いでいたら、実はそこは路上だったなんてこともあるかもしれない。トイレの便座に座っていても、そこが本当にトイレなのかが分からない。つまり、幻影かもしれないってことだ。
幻術士への対抗手段(幻術の破り方)を急いで調べる必要があるよね。てか、僕も七宝氏には敵認定されているんだから他人事じゃないよ。
どんでん返し…。




