128 登山④
七宝氏からは思い出したように投石されている。だいたい10分おきくらいかな。
しかも僕の重力範囲が半球形の領域だとでも思っているのか、僕らの上空に石を投げて放物線軌道で当てようとしているね。
でも無駄だよ。なぜなら半球形領域じゃなくて、上空50メートルくらいまである円筒形の領域だから…。
スリングショットとか投石機とかを使えば別だけど、手で投げただけじゃ50メートルの高度までは投げられないだろう。
てか、これだけの魔法、ちょっとチート過ぎるんじゃねぇ?って感じで、神様の設定ミスを疑ったものだよ。まぁ僕としてはありがたいんだけど…。
攻撃されている中でのお昼休憩というこの状況、レイコちゃんは落ち着いてるんだけど、三条さんはまだちょっとビクビクしている。そりゃそうか。命を狙われてるんだもんね。異常なのはレイコちゃんのほうです。
で、昼食が済んだら、春の日差しがポカポカと暖かくってちょっと眠くなってきたよ。
そうして一時間くらいが経った頃かな。周囲の風景が揺らいできたと思ったら、さぁーっと見覚えのある景色が目の前に広がった。僕が二人に声をかける前に見ていた、森を抜けた先にある崖のそばの光景だった。
そして、そのタイミング(幻術の解除)に合わせて、崖とは反対側の森の中で争う物音が聞こえてきた。
しばらくして、加藤さんが七宝氏の両腕を拘束した状態で僕たちの目の前に現れた。この加藤さんって本物だよね?幻じゃないよね?
「レイコお嬢様、大変お待たせしました。暗殺者を拘束するのが遅くなってしまい、申し訳ございませんでした」
「いいえ、よくやってくれました。加藤さん、あなた『ハヤト』という名前なの?」
「その質問にはお答えできかねます。ご容赦くださいませ」
レイコちゃんと話していた加藤さんが僕のほうを向いて質問してきた。
「ツバサちゃん、加藤ハヤブサと言えば?」
「戦闘隊だよね」
「ふふ、どうやら本物のツバサちゃんみたいで安心したよ」
あれ?加藤隼戦闘隊って、大多数の人が知ってるんじゃないの?いや、戦記に興味ない人は知らないか…。
「今の二人のやり取りがどういう暗号なのか知らないけれど、加藤さんが本物らしいということは分かったわ」
レイコちゃんは戦記に興味が無いみたいだね。
ここで七宝氏が口を開いた。
「私、これでも体術にはかなりの自信を持っていたのですが、あっさりと捕まってしまいましたね。さすがは『鳶加藤』を襲名されているお方だ。第15代目か第16代目くらいでしたか?」
「親父が16代目で、俺はまだその二つ名を名乗ることを許されていない。だから『ただの加藤』だ」
「さようでしたか。初代『段蔵』氏は幻術士でもあったようですが、あなたのお父上やあなた自身に幻術の心得は?」
「無いな。だから幻術の破り方も分からなかった。ただお前の幻術の効果時間よりもツバサちゃんの魔法の効果時間のほうが長かったのが不運だったな」
「全くです。津慈ツバサ君の範囲魔法がこれだけの長い時間、持続するなど誰が想像できるでしょうか?はっきり言って異常です。魔法阻害装置も効かないし…」
し、失礼な!誰が異常者か。
「うん、分かる分かる。俺も以前ツバサちゃんには完璧に敗北したからな。チートというよりはちょっとしたバグだろ、これ。
バグとはプログラムの不具合のことです。…って誰がやねん!
加藤さんと七宝氏が言いたい放題だよ。てか、めっちゃ意気投合してるみたいに見えるんだけど、敵同士なんだよね?
二人して僕の悪口を言い合うのは止めて欲しい。
一応なんとか危地を脱したツバサちゃんたち。
ただ、こんな簡単に捕まるような小物なのでしょうか?七宝氏は…。
まだまだ一波乱ありそうな予感…。




