121 親子デート
僕のスマホのアドレス帳には『加藤ハヤブサ』という名前が登録されている。てか、ハヤブサって本名なのか?もしかしてコードネームみたいなやつだったりして…。
まぁ本名だろうが偽名だろうが別にどうでも良い。
僕は加藤さんに電話をかけて、次の休日に会う約束を取り付けた。
そして今日がその約束の日。
例によって僕のアパートまで車で迎えに来てくれた加藤さんは、最後に会ってから半年くらい経っているけど相変わらずのイケメンだった。
安西さんの事件からもう半年も経つんだな。
「ツバサちゃん、久しぶりだな。元気してたか?」
「うん、元気だよ。そうそう、ついこの前なんだけど22歳になったよ。加藤さんも仕事で怪我とかしてない?」
「ああ、大丈夫だ。心配してくれてありがとな。そっか22歳か~。誕生日のプレゼントを用意しなきゃいけないな」
『22歳か~』という発言の際、残念な子を見るような視線を感じたんだけど、きっと気のせいだろう。
「くれるというなら貰うけど、別に無理しなくて良いよ。それより今日は加藤さんにお願いがあってさ。何も聞かずに承諾してよ」
「あほか。事情を説明しろ。承諾するかどうかはその話次第だ」
呆れたような口調の加藤さんに僕は、三条さん(九条アスミさん)とレイコちゃんの護衛の件を九条レイカさんの企みと共に説明していった。
「で、レイコ様とツバサちゃんとの関係は?助けようとしているのは単なる正義感なのか?」
「もちろん正義感もあるけど、それ以上にレイコちゃんが僕の幼馴染で一番の大親友だからだよ。世界中がレイコちゃんの敵になったとしても、僕だけは味方のままでいるくらいにはね」
「なにぃ、レイコ様の一番の味方はこの俺だぞ。九条一族への忠誠心など無い俺だが、レイコ様だけは別だ。ツバサちゃんがレイコ様に敵対したとしても、俺だけは味方でいるくらいにはな」
険悪な雰囲気で睨み合う僕たち…。
どちらともなくプッと吹き出した。
「僕たちは同じくらいレイコちゃんの味方ってことだね」
「ああ、そういうことらしいな」
顔を見合わせてニヤリと笑う二人…。悪代官と越後屋って雰囲気もあったけど、悪だくみじゃないよ。
「それにしてもツバサちゃんがあのアスミ様と知り合いになっていたのが意外だよ。というか、そのアスミ様なんだが本当に信頼できるのか?本心はレイコ様への復讐じゃないだろうな?」
「美女先輩を覚えてるよね?三条さんの本心を読心魔法で確認してもらったから絶対に大丈夫だよ。三条さんは僕らの味方だから」
「そっか。尾錠さんのお墨付きなら問題ないな。てか、『九条アスミ=三条アスカ』ってのがややこしいから、俺も三条さんって呼ばせてもらおう」
そのあと腕組みをして少しの時間だけ何かを考えていた加藤さんが僕に質問してきた。
「なぁ、レイカ様の発言を三条さんに録音してもらって、それを御前様に告発すれば一発で解決するんじゃねぇの?」
「うん、それは僕も思った。でもダメだったみたいだよ。録音したものをあとで聞いたら、ザーっというノイズしか入ってなかったみたい。原因は分からなかったそうだけどね」
そうなのだ。三条さんがスパイ活動してくれるなら、九条レイカさんの発言を録音するのも簡単だろう。だったらそれを証拠にして、犯罪を未然に防げるんじゃないかって僕も考えたんだよね。
三条さんの話では密談した部屋の中にはノイズの発生源らしきものはなく、なぜ録音に失敗したのかは全く分からなかったそうだ。なお、部屋の中は二人きりではなく、もう一人30代くらいの年齢の男性が側近のように控えていたらしいんだけど…。
「まぁとにかくだ。レイコ様は俺が命に代えてもお守りする。三条さんのほうはまぁ、気にかけておくくらいで良いか?」
「逆だよ。危険度が現状高いのは三条さんのほうだよ。レイコちゃんは今すぐにはどうこうされないはずだけど、三条さんはスパイ活動がばれた瞬間に殺されるかもしれない」
加藤さんが悩んでいた時間は極わずかだった。
「了解した。俺が三条さんに接触するのは目立つから、彼女が得た情報はツバサちゃん経由で伝えてもらおう。ただし、三条さんの身柄の安全については俺や俺の部下に任せてくれ」
「本当にお願いね。あと九条レイカさんの魅了魔法には気を付けてね」
「分かってるさ。俺自身には魔法は効かないが、部下たちにはできるだけ旧型の魔法阻害装置の影響下で活動させるよ。新型の魔法阻害装置が魅了魔法を阻害しないってのがまじで厄介だぜ」
ほんとにそうだね。布石の打ち方がうまいというか、何というか…。
「そういえば女性隊員っていないの?」
加藤さんが苦い顔になった。
「いないんだよ。九条家の隠密部隊は男性によって構成されるってのが昔からの決まりだ。おそらく色恋沙汰を避けるためだろうがな」
「魔女の部隊もいるんだよね?そっちに応援を頼めないの?」
「命令系統が違う。俺たちとの接点も無いしな。まじで出会いが無いんだよ。職場結婚は無理の無理無理だ」
「はぁ~、そりゃご愁傷様だね。でも良いじゃん。こんなに可愛い僕という娘もできたことだし…」
「誰が娘だよ。てか自分で『可愛い』言うなや。いや、娘じゃなくて妹くらいの年齢差だっつーの」
ツッコミに忙しい加藤さんだった。
久々の加藤さんとのからみです。筆が進む、進む。
やはりツバサちゃんとの相性は抜群ですね。




