115 誕生日③
ある中華料理店の個室(定員10名くらい)を借りて僕の誕生日会をしているんだけど、そろそろお腹いっぱいになってきた。
あ、ここの費用は全額、以前にBEATの活動で貰った報酬の中から出してもらっている(田中マリさんから振り込まれてきた1億円のことね)。
タケル君が僕の魔法に興味があるのか、目を輝かせながら質問してきた。
「なぁ、ツバサ。きみの重力魔法ってどんなことができるんだい?というかさぁ、五つの根源的な力のうち二つが組み合わさっているなんて、普通は考えられないんだが…」
「え?根源的な力って四つだよね?電磁気力、二つの核力、あと重力…」
「いや、もう一つ魔力があるぞ。だからこそ重力を魔力で制御するというのが不思議なんだよな」
はぁ?魔力って四つの力の下位に存在する力なんじゃないの?たしかに前世には魔力って無かったけどさ。今世のこの世界では根源的な力は五つなの?
少し混乱した僕だったけど、とりあえず質問には答えておこう。
「僕の魔法だけど、一定範囲内の重力を増大させたり、個々人にかかる重力を制御することができるよ」
「それはすごいな。ちょっと僕にかかる重力を月面と同じ6分の1Gくらいにしてもらえないかな?」
「お安い御用だよ」
僕は重力軽減を0.17Gでタケル君にかけてあげた。
「今、魔法をかけたよ。効果時間は1分にしたからね」
これを聞いたタケル君が席を立って軽くジャンプした。てか、本当に軽くジャンプしたみたいなんだけど、部屋の中の天井にまで到達し、ゆっくりと降りてきたよ。まさに月面っぽい。
見ていた他の人たち(マイさん以外)がビックリしてるよ。マイさんだけは僕がこの魔法を使うのを目撃しているからね。
ここで何かに気付いたようにタケル君が発言した。
「あれ?ちょっと待って。この個室の中って魔法阻害装置は働いていないのかな?」
「ん?魔法阻害装置だったらきちんと働いてるはずだよ。まぁ僕の魔法には影響しないんだけど…」
「はぁ~?それはかなりヤバいんじゃないか?いや、それよりもツバサの重力魔法が阻害されない理由は何だろう?魔力波に逆位相波をぶつけてその魔力波を相殺するのが魔法阻害装置の仕組みだけど、重力魔法の魔力波形パターンが特殊なのか?いや、そもそも魔力波を使ってない?まさかな…」
ブツブツと自分の世界に入り込んでいるタケル君はしばらく放置だな。さすがは魔道具の研究者を目指している人だ。
ん?ちょっと待って…。『魔法阻害装置』の話で思い出したよ。
さっき九条アスミさんは『御前様』という単語を口にしていなかった?
どこかでその言葉を聞いたような覚えが…。
・・・
はっ!加藤さんだ!
加藤さんが安西ハツミさんの事件のときに別荘の地下室で言っていたような…。
曰く…。
『御前様も孫娘のご機嫌をとるために、君をこの世から消し去る決定を下された』だったっけかな?
あれ?まさかそのお嬢様ってのは九条アスミさんのこと?いや、罪の無い人に対して殺害指令を出すような人には見えないよ。アスミさん本人に聞くわけにもいかず、僕の背中には嫌な汗が流れた。
そうだ!『孫娘』がアスミさん一人とは限らないよね。
「ねぇ、アスミさん。御前様のお孫さんってアスミさんだけじゃないよね?他にもたくさんいるんだよね?」
にっこりと微笑みながらアスミさんが答えてくれた。
「たくさんはいないわね。私を含めて六人かしら」
「お嬢様って何人いるの?」
「私を含めて女性は四人ね。って、津慈ちゃん、それがどうかしたの?」
そっかー、良かった。きっと加藤さんが言っていた『お嬢様』って、アスミさんのことじゃないよ。根拠はアスミさんが魔女じゃないことだ。
「その中に魅了の魔法を使える女性がいたりして?」
「いるわよ。九条レイカという私の従妹が魅了魔法を使えるって公言しているわ」
真剣な顔つきになっているのはBEATメンバーの四人だけで、マイさんやアスミさんは不思議そうな顔をしている。
なお、タケル君はさっきからうんうん唸りながら考え続けているみたいで、僕らの会話を聞いていないようだ。多分、僕の魔法が魔法阻害装置によって阻害されない理由を考察しているのだろう。
うーん、安西さんの件は秘密なんだよな。安西さん自身の安全のためにも、加藤さんの保身のためにも…。
でもこれで加藤さんの所属している組織ってのがどこなのか、分かった気がする。九条家だったんだね。
徐々に謎が明らかになっていきます。
レイコさんが登場するのはもう少し後になりますが…。




