114 誕生日②
「えっと、もしかして九条…ええっとあの神の名前は何だったっけ?」
「つつちゃん、神って…。もしかして九条タカシさんかしら?」
「そうそう、九条ロジスティクスの専務の九条タカシ様、あの人とは知り合いだったりして?」
僕の質問に三条さん、…じゃなかった九条アスミさんが答えた。
「兄です。血の繋がった…」
めっちゃ驚いた。似てねぇ!
いや待てよ。あの神が痩せた場合、どうなるかな?たしかに少し似てるかも…。
「三条さん、いえアスミさん。うちの会社に九条ソフトウェアからの仕事が下りてきたのってもしかして?」
「ええ、兄が配慮したみたいです」
これは美女先輩とアスミさんの会話なんだけど、マイさんとタケル君には意味不明だよね。説明してあげないと。…って守秘義務があるから詳細は言えないんだけど。
「うちの会社に大規模開発案件が持ち込まれた理由が謎だったんだけど、これで分かったよ。あ、九条タカシ様って、その開発案件の大元のクライアント様なんだ」
だから僕は内心で『神』と呼んでいるのだ。社長の姪っ子であるギャルをやり込めてくれたという実績もあるしね。
ここでタケル君が発言した。
「九条グループって、この国の富の3割を占めるという大財閥で、九条家単体であっても総資産は『兆』の単位で表されるって話ですよね。あと、政界にも大きな影響力を持つ黒幕という噂もありますし…」
「へぇー、そうなんだ。さすがタケル君だね。何でも知ってる」
「ツバサが知らなすぎるんだよ。いずれにせよ雲の上の人であることは間違いないですね。これは噂というか都市伝説っぽい話ですけど、九条家は私設軍隊みたいなものも持ってるとか…」
私設軍隊?まじですか。
アスミさんが困ったように微笑みながら発言した。
「詳しいことは言えないんだけど、あながち間違ってもないわ。ふふ、ご想像にお任せします」
うーん、これは本当っぽい…。まさか拉致られたり殺されたりとか、するのだろうか?
ユカリさんがここで会話の流れを今日の主役である僕のほうに戻そうという意図なのか、次のように言ってくれた。
「今日はツバサちゃんの誕生日なのに、主役の座を九条さんに奪われちゃったわね」
ありがとう、ユカリさん。さすがはBEATのサブリーダーだよ。
…って思っていた僕の感動をユカリさんの次のセリフがぶち壊した。
「九条様、うちの銀行の口座はお持ちですか?よろしければ財形貯蓄のお話でも…」
って、めっちゃ営業かけてるじゃん!
たしかに相手は『超』の付く大金持ちなんだろうけどさ。てか、アスミさんも困り顔になってるよ。
いかなるときでもブレない銀行員のユカリさん。まさに銀行員の鑑です。




