110 九条レイカ④
通っている大学のあるサークルで今度飲み会があるらしい。一緒に参加しない?ってお誘いを攻略中のイケメンから受けた私は、深く考えることもせずその飲み会に参加することにした。
男子学生20人、女子学生5人(うち一人が私)の大規模な飲み会で、とても楽しい時間を過ごしたわ。女子学生は例外なく全員が美人だったせいで、特別私だけがチヤホヤされたってわけじゃなかったけどね。
平均して4人の男子学生が一人の女子学生を囲んでいるという構図だった。
そろそろお開きという時間になって、私は足腰が立たなくなっていることに気付いた。そんなにお酒を飲んだつもりは無かったんだけど不思議だな。意識自体ははっきりしてるんだけど、立ち上がることができないのだ。
周りを見ると、女子学生全員が同じような状況になっていた。まさか、何か一服盛られた?
男子学生全員がニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていて、それを見た私はこれが仕組まれた事態であることを確信した。でも私の頭の中にあったのは『この乙女ゲームって18禁なのかしら?』という何とも間抜けな思考だった。
介抱するふりをした男たちは私を含む女性全員を抱きかかえるようにして、とある場所へ移動した。どうやら廃ビルの一室のようで、ちょっと埃っぽかった。
リーダー格の男が私たちに言った。
「今から二次会だ。と言っても酒は無いけどな。まぁ乱交パーティーってやつさ。ああ、これは決して強姦じゃなく、同意の上でのセックスだからそこんとこよろしく。ビデオ撮影もするから警察に訴え出たりしたらどうなるか分かってるよな」
「いやぁ~、やめてよ!」
「お願い、家に帰して!」
これを聞いた私以外の女子学生たちが口々に泣き叫ぶ中、私だけは毅然とした態度でリーダー格の男に言った。
「こんなことをしてタダで済むと思ってるの?あなたたち全員を殺すくらいわけないのよ」
両腕を二人の男に拘束された格好だったから、あまり威厳は感じられなかっただろうけどね。それでも九条家の人間としては、こんな犯罪者たちの言いなりになることはできないわ。
…っと、突然右頬に痛みを感じた。リーダー格の男にビンタされたのだと、遅ればせながら気付いた。
さらに胸元に手をかけた男は一気にその手を引き下げた。ブラウスのボタンがはじけ跳んで、ブラがあらわになった。
「ひゅー、結構胸あるな。まぁそれより、なめた口きいてんじゃねぇぞ。今の自分の立場をわきまえろや」
え?これって乙女ゲームよね?殴られた痛みは本物だし、こんな酷いシナリオってあり得るの?え?え?まさか、これって現実なの?
いえ、ここで攻略対象者がヒーローのように颯爽と駆けつけて、少なくとも私だけは助かるのよね?ね、そうよね?
私は埃っぽい床に押し倒されて、両脚をM字の形に広げられた。
髭面のブ男が顔を近づけてくる。タバコ臭い息が鼻にかかって、私は思わず顔を顰めた。どう考えても遅すぎるんだけど、この世界が(ゲームではなく)現実であることを私は初めて認識した。
「た、助けて…」
その瞬間、男の姿が消えた。身体に圧し掛かっていた重みが一気に無くなったのだ。上半身を起こして周りを確認すると、他の女性たちも同じように上半身だけ起こした状態でキョトンとしていた。
そして男たち(強姦未遂犯)は全員、突然この場に現れた黒づくめの男たちに一方的にボコボコにされていた。んで、あっという間に20人の強姦未遂犯たちを叩きのめして、あらかじめ用意していたのかロープで全員を縛り上げていった黒づくめの男たち。
まさに怒涛の展開…。私は現実感を失ったまま、この騒動をぼーっと眺めるのみだった。
「レイカお嬢様、お助けするのが遅くなってしまい申し訳ありませんでした。四番隊の黒木でございます。とりあえず私の上着を羽織ってください」
はぁ、この人たちって九条家の隠密部隊の一つである『四番隊』ってやつなのか。たしか本来はおじい様の護衛を担当している部隊って聞いていたけど、その一部を私の護衛に回してくれていたらしい。本当に助かったわ。
黒木って人の真っ黒い上着は私には大きすぎてブカブカなんだけど、ブラウスを破かれてブラが見えている状態だったからとてもありがたい。
「こいつらの処遇をご命令ください。警察に突き出すも、この世から消すもお嬢様の御心のままに」
これがゲームなら『殺す』一択なんだけど、現実世界ではそうもいかないか…。
あれ?今まで私が『この世から消す』判断を下した人たちは?
私の背中に嫌な汗が流れた。
ついにこの世界がゲームじゃないことに気付いたレイカお嬢様。
あとはこの子の本質が『正』と『邪』のどちらなのかが問われることになるわけです。




