109 開発部の新人③
とりあえずギャルを開発部の部屋から追い出した。警察沙汰にするかどうかは社長の判断次第だけど、おそらく馘首にするくらいで済ますものと予想。ほんと身内に甘い社長なのだ。
そんなことよりも削除されたファイルをどうするかってことだね。
僕はゆっくりと右手を上げて、発言し始めた。全員の視線が僕に集中している。
「えっとこれは就業規則違反になるんですけど、昨夜時点の最新のバックアップファイルだけ僕のPCに保存しています。ごめんなさい」
「「「「「何ぃ~」」」」」
複数の人のセリフが一斉に発せられた。
「でかした、津慈。いや本当は怒らないといけないのだが、今回だけは褒めてやる。すぐにファイルサーバを復元しろ」
直属の上司である森課長が僕に言った。もちろんすぐに復元に取り掛かったよ。ファイルサイズが大きかったから、少し時間はかかったけどね。
実は美女先輩がギャルの計画(全てのファイルを削除して、その罪を三条さんに着せること)を読心魔法で読み取っていたのだ。だからこそすぐに罪を暴くことができたし、僕もバックアップファイルを保存しておくことができたってわけ。
就業規則違反は美女先輩がかぶるって強硬に主張していたんだけど、僕がやるって押し切ったよ。僕ならまだ若手だし、目こぼししてもらえるはず…。褒められるとは思わなかったけどね。
「いやぁ、まじで助かった。犯人であるあの女が『悪魔』だとしたら、お前は差し詰め『天使』ってところだな」
田中主任が僕の頭を撫でてくれてるんだけど、子供扱いすな!てか、気安く触るな。セクハラだ。
まぁ、褒められてはいるんだけど…。
あと、三条さんが美女先輩にお礼を言っていた。
「尾錠さん、冤罪を晴らしていただいて本当にありがとうございました。感謝の言葉もありません」
「いえ、あなたの人柄自体があなたのことを助けたいと周りの人に思わせているのよ。善人が割を食う世の中にはしたくないわよね」
いや本当にそうだね。勧善懲悪(善を勧め、悪を懲らしめる)こそが時代劇の王道だよ。…って時代劇じゃないけど。
その後の話…。
九条タカシ様が参加した今日のデザインレビューも問題なく終わった。隕石が降りそそぐ(いきなり仕様変更などの爆弾発言が出る)こともなく、ニコニコと進捗状況を聞いているだけだった。あ、僕は雑用係として会議室の中にいたから知っているのだ。なにしろ、総務のギャルが仕事しないので。
てか、九条様って若いのに貫禄があって、かなりの大人物に見えるよ。さすがは九条家の人って感じだ。
帰り際のエレベーターホール、以前の嫌な記憶が甦る。今回はさすがにギャルの突撃は無いだろう。
…って皆が思っていた隙を突かれたのか、ギャルが九条様に体当たりしてきたよ。くそっ、阻止できなかった…。
「ねぇ~ん、私をあなたの会社で雇ってもらえないかしら?あなたの秘書にしてくれれば、色々とお世話させて貰うわよ。下のお世話も含めてね」
うわぁ、耳が腐る。社長が万事休すって感じで天を仰いでいるよ。下品過ぎる姪っ子で、これはさすがに社長に同情するレベル。
九条様が冷たい声音でギャルに言った。
「俺はあまり女性に酷いことを言わないようにしているんだ。美人には美人って言うけどね。でもさすがに君には言っておいたほうが良いだろうな」
「なぁにぃ?」
甘ったるい口調で聞き返すギャル。気持ち悪い…。
「君の顔面偏差値は45ってところだぞ。いやその厚化粧を落とせば40くらいかもしれない。ちなみにそこにいる美人さんは70くらい、隣にいるちっちゃい子が65ってところだな」
美人さんってのは三条さんのことで、ちっちゃい子ってのは僕のことだよ。…って誰が『ちっちゃい子』やねん!
てか、アホなギャルは偏差値の意味が分かってないみたいだよ。ギャルの反応でそれが分かったのか、九条様が言い直した。
「要するに君はブスってことだよ。俺に気安く話しかけんなって言いたいわけ」
ギャルが絶句している。てか、ここにいる皆はさっきの偏差値に同意している感じだね。僕の顔面偏差値が65ってのは高過ぎだと思うんだけど…。
エレベーターがやってきてお客様方がお帰りになったあとも、エレベーターホールに呆然と立ち尽くすギャルだった。同情して誰かが声をかけるかな?って思っていたら放置プレイだったのも笑える。
そりゃそうか。ファイル削除という重大な犯行、いくらバックアップから復元できたとしても無かったことにはできないよね。
偏差値70ってのは1000人いれば23位くらい。同じく偏差値65ってのは1000人中67位ってところです。
ちなみに偏差値40は、1000人中840位って感じですね(笑)




