105 総務部の新人②
「津慈ちゃん津慈ちゃん、ちょっとこっちにおいで」
総務部を所用で訪れたときに、そこのお局様からこっそりと手招きされた僕だった。
声を潜めながら話を聞いてみると、三条さんがギャルから嫌がらせのようなことをされているみたい。机にお茶をこぼされたり、足を引っかけて転ばされそうになったりといった軽いものから、仕事に関わる重要な手書き書類を破かれて作り直しをさせられたりといった会社の業務に支障が出るようなものまで様々だそうだ。
「あたしらじゃ助けてやれないからさ。津慈ちゃんが友達として愚痴を聞いてやるくらいのことはしてやってほしいのさ」
部内では誰もが知る嫌がらせなのに誰も犯人に注意できないというこの状況、はっきり言って糞だな。てか、このこと社長は知ってるのかな?
「社長には一度うちの部長からご報告したんだけどねぇ。社長からあの子に軽く注意しただけで終わりだったよ。何か弱みでも握られてるんじゃないかってもっぱらの噂だね。おっとこれは聞かなかったことにしておくれ」
うーん、何とかしてやりたいけど、隠しカメラでいじめ現場を盗撮するくらいしか思いつかないよ。もちろんそんなことはできっこないんだけど。いや、たとえ証拠があっても社長がそういう態度では意味が無いか。
お昼になって美女先輩と三条さんと僕の三人はこじゃれた喫茶店に来ていた。ここはお昼限定で色々なパスタを提供してくれる隠れた名店なのだ。外からは単なる喫茶店にしか見えないけどね。
食事をしながら僕は三条さんに嫌がらせのことを聞いてみた。あのギャルは『いじめ』を隠そうともせずに堂々と行っているので、僕が知っていても不思議ではない。
「大丈夫よ、津慈ちゃん。心配してくれてありがとう。でも良いの。こういうことも含めて社会経験だと思っているから」
いやいや、いじめを受けるのを社会経験って思っちゃダメでしょ。三条さんが許してもこの僕が許さないよ。
…っとここで美女先輩が発言した。ちなみに美女先輩と三条さんは年が近いせいか、以前僕が紹介してあげた瞬間から意気投合していたのだ。
「これはBEATの案件かもしれないわね。つつちゃん、出動よ」
「ビートって?」
三条さんが首を傾げている。その仕草も可愛いです。
「無償奉仕で困りごとを解決するグループのことで、美女先輩と僕はそのメンバーなんだ。あ、会社には内緒だよ」
「でもこんな私的な事情に巻き込んだら悪いわ」
「いや、あいつは会社の業務を妨害しているって言っても良いくらいだよね。だから全く私的じゃないよ」
こうしてこの件は僕たちが解決すべき案件となった。
BEATの集会の際、議題として上がったこの件に対してまずユカリさんが発言した。
「サヤカさんとツバサちゃんの会社の案件とはいえ、困りごとには違いないわね。ただ私の透視の出番は無さそうだけど」
この意見にマユミさんが続いた。
「私の認識阻害も使いどころがあるかな?いじめの現場をビデオカメラでこっそりと盗撮したとしても、社長がその子に注意できないんじゃ意味無いし…」
いや本当に難しいな。窃盗や器物損壊のように明確な犯罪行為ならまだしも、警察沙汰になるような行為は無いんだよね。
「三条さんが実はうちの会社の社長を解任できるくらいの力を持った家のお嬢様とかだったら面白いのにね。そんな水戸黄門みたいなこと、あるわけないか…」
僕のこの冗談に場の空気が少し和んだよ。
んで、色々と意見を出し合って、二時間くらい話し合ったんだけど、これぞという名案は出なかったよ。
うーん、捜索系の案件なら簡単なんだけどなぁ。




