101 九条レイカ①
私の前世は不美人であるが故の生涯独身だった。処女のまま突発的な疾患(おそらく脳梗塞)で孤独死した私だったが、そのおかげで転生権を得ることができたのは僥倖と言うほかない。享年は56歳。
神様から転生したい世界の希望を聞かれたので『現代日本が舞台の乙女ゲームのような世界の主人公になりたい』と望んだら、日本でも有数の大財閥である九条グループ本家のご令嬢として生まれ変わることができた。神様には感謝しかない。
あと、転生者には何らかの能力が与えられるらしいんだけど、私は『異性の好感度を簡単に上げることができる魔法』と『その好感度を見ることができる能力』の二つをいただいた。そのせいで無限倉庫をもらうことができなかったのは少し痛いけど、まぁ別に要らないわよね。
前世で乙女ゲームを散々やり込んだ私にとって、攻略対象の好感度を見ることのできる能力のほうがより重要なのだ。
ただこの世界、よくあるファンタジー世界のように魔法かけ放題(私にとっては、好感度の上げ放題)ってわけじゃない。至る所にとても邪魔な装置が稼働しているのだ。それが魔法阻害装置。邪魔だからジャマーなのかな?
もっとも、あまりにもイケメン攻略が簡単すぎる場合、ヌルゲー過ぎて面白くないかもしれないし、このくらいの難易度がちょうど良いのかもしれないわね。
私以外は全員NPCなんだろうけど、この世界にも法律や警察があるため、いくら私が主人公だからといって好き放題できるわけではない。そのあたりもリアリティーがあって良いと思う。
高校は大金持ちしか通えないようなすごい私立高校に大金を積んで無試験で入学し(つまりは裏口入学ね)、いよいよイケメンとのラブロマンスが始まるのかと思いきや、王子様や騎士団長の息子はいなかった。…ってそりゃそうか、現代日本だものね。
そこそこ格好良い男の子はいたから、もちろん魔法で魅了したわよ。魔法阻害装置の無い海辺や山の中、つまり海水浴や林間学校へ行ったときなんかに…。私の容姿自体もかなり優れていたから、魔法無しでも男子からの人気はあったんだけどね。あ、でも女子からは嫌われていたわ。可愛い私への嫉妬に違いないんだけど…。
なお、男子人気の高かった私だけど、絶対に一線を超えるようなことはしなかった。だってこの世界に飽きたら、また別の世界に転生するつもりだもの。うーん、やっぱり次は中世ヨーロッパみたいなファンタジーの定番世界が良いかな?
ちなみにNPCには擬似的な感情もあるみたいで、おそらくとても優秀なAIが働いているんだと思う。まぁ、私にとっては所詮ただのNPCなので、自分以外の人間(NPC)が死のうが生きようがどうでも良いんだけどね。そもそも私以外のキャラクターはプログラムであって、生きている人間じゃないし…。
あ、そうそう、乙女ゲーム定番の悪役令嬢は出てこないのかな?…って思っていたら、なんと私の従姉のお姉様(九条アスミ)がそうだったみたいで、ある年の正月に断罪されていた。ただ、なぜか狙われたのは私じゃなくてもう一人の従姉(高月レイコ)だったけどね。
そう言えば本家のお屋敷には加藤というイケメン執事がいるんだけど、この男性ってきっと攻略対象だろうな。ただし、私の魅了魔法が全く効いていないのが不思議なんだけど…。なにしろ魔法をかけても好感度が微動だにしないのよ。いえ、好感度が上がるどころか、下がるときすらあったわね。
実は男装している女性だったりして…。いや、それは無いか…。
これはきっと何か事前のイベントが必要なタイプね。何かフラグが立たないと魔法が効かないように設定されているんだわ。
あと、このゲームのクリア条件は攻略対象者の一人と結ばれてハッピーエンドになることなんだろうけど、もしかして逆ハーレムもあるのかな?
とりあえず、現時点の攻略対象は加藤というイケメン執事で良いとしても、大学に入ればまた新たな攻略対象が登場してくるかもしれない。そのときは逆ハーを狙ってみるのも良いかもね。
いずれにせよ二度目の人生はこのゲームの主人公として楽しもう。たまに私だけが自我を持っていることに孤独感を覚えるときもあるけど、それは仕方ないわよね。乙女ゲームなんだし。
大いなる勘違いをしているレイカお嬢様。
この世界は乙女ゲームではありません。




