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8.目指すのは今とは違う自分③

短い

 ひたすらに、ただ気まぐれに街を出歩きます。おいしそうなものがあればそのお店へ寄っていき、時には人気のない道を通ってみたり……丸1日かけて自由に過ごしていましたが、特に何かが起こるわけでもありませんし、絡んでくるとすれば大体プレイヤーしかいません。

 しかも、その理由が意味不明で……血走った目をしていた人もいてびっくりでした。


「もう、日も暮れてしまいそうですね……」


 せめて、最後くらいなにかが起きてほしいと願って、路地裏を進んでいくと……見たこともない景色が見えてきました。



 それは、寂れたぼろぼろの集落で〝スラム〟という言葉がピタリと当てはまるような、そんな場所です。

 歩く人々の目に生気はなく、虚ろで虚空を見上げる……ゾンビのようにふらついて生きているのかさえ怪しく思えてきます。


 ――そこで、私の中にある直感のようなものがピンときました。


「ここ……ということですか」


 目的のものがあるとすれば、ここにある。街の人々を〝表〟とするなら、ここスラムは〝裏〟――表の人間が恐れるとしても十分な理由ですね。


「さて、あとは適当に出歩いていれば――」


「げへへ。おい嬢ちゃん、命が惜しくば金を出しな!」


「――……こういう輩が現れますよね」


 ぞろぞろと私を囲うように集まるスラムの住人。小汚い連中ですし、武器を携えていますが……栄養が足りてないのか、やせ細って手足に力が入っていません。

 子どもも参加する始末で、繁栄してるこの始まりの街がどういった場所なのか、よく理解できます。


 ……のうのうと、明るいところだけ取り上げて理解したつもりになっているプレイヤーがここを見たらどう思うでしょうね?


 さて、とりあえずこの連中の始末から……なんですが、見られています。どうしてなのかは、考えるまでもありませんね。きっと実力を測られているのでしょう。

 ならば、殺すわけにも、負けるわけにもまいりません


「――『黒狼剣ウルファング』」


 魔女から貰い受けた大剣をインベントリから取り出し、切っ先を手前に居るスラムの住人に向ける。今の私が手加減して、最大限実力を発揮できるのはこの戦闘スタイルしかありません。

 《徒手空拳》や《殺人術》が発動してしまっては、誤って殺してしまう可能性があります。ならば、慣れない武器を使うほうが、殺してしまう確率は低いでしょう。それに、練習にもなりますし。


「しっ――!」


 なるべく致命傷に至らないように、急所を狙わず胴体を切り裂いていく。《隠密》や《下級剣術》、《身体操作》を駆使しながら、四方から迫りくる攻撃を躱し次々となぎ倒していく。

 《気配察知》が良い仕事をしているのか、背後からの攻撃も知覚することができ……頭を狙った振り下ろしを身をかがめて回避し、大剣を横に構えて……回転。


「うぐぁあああ!!」


「……はぁ」


 少々やりすぎてしまったようで、深く斬ってしまいました。ため息を吐いて、インベントリから小瓶を取り出して吹き飛ばしてしまったスラムの住人に向けて投擲。

 蓋を開けておいたその小瓶の中身は、頭から降りかかって体の傷を塞いでいきます。体力を即座に回復させる『回復薬』(ポーション)なんですが、そこそこ高かったので少し残念です。


「まあ、私は薬草で十分ですしね」


 それに、予備はありますし使いどころを見誤っても仕方ないですし、気にしないようにしましょう。1度大きくかがんで跳躍すれば、敵の大まかな数を把握します。……そんなにはいませんか。


「……では、行きますか」


 落下地点は……もちろん、覗き見している不埒者です。

スラムの住人を殺さないのは、別にそれが〝価値〟あることではないから。それよりも、殺すべき〝価値〟は別にあります。

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