7.目指すのは今とは違う自分②
翌日、起きて早々に『リアリティ・オブ・ファンタズム』にログインすると……簡素な一室で目を覚まします。ベッドと机があるだけの狭い部屋ですが、昨日ここしか空いていなくてどうせ寝るだけだからと適当に選んだ記憶があります。
休息はリアルで取れますし、不足はないです。
「さて、今日はギルドに向かい《スキル》の獲得――の前に食事ですね」
視界の端に、空腹状態であると知らせるアイコンが点滅しており、放っておけば餓死してしまうでしょう。
食事をとるために宿から外に出て、街中を歩いていると……そこかしこから視線を感じます。特に何かした覚えはありませんが、目を向けているのは大体がプレイヤーですね。NPCならいざ知らず、他のプレイヤーとはあまり縁がないと思っているのですが、その眼差しは確実に私の向けられています。
「……ふむ、味覚まで再現とは凄いですね」
ですが、そんな細かいことを気にしている余裕はありませんし、する必要もありません。少々鬱陶しいですが、そんなことをするならそこの売店で購入したサンドイッチを頬張りながら、改めてこのゲームの再現度の高さに感心しているほうがよっぽど有益です。口の中まで広がるソースの香りや風味は、現実では味わったことがないながらも〝おいしい〟と感じることができます。最後の一口を放り込むと、しっかりと味わって飲み込みます。
インベントリにたくさん購入したので、後でまた食べましょう。本当はもう一つ食べていたいです。
けれど、今はこちらが優先ですから。
「確か、ギルドの横に併設されているんですよね」
親切なことに案内板が立てられていて、それに従い進んでいくと、大きな建物と遭遇します。入口に訓練場と書かれて居るので間違いないでしょう。私は入口をくぐり、中に入ると……早朝だというのに、それなりに人がいて軽く驚きます。
「なぜ、彼らは……ああも、笑いあって肩を並べているのでしょう……?」
プレイヤーもNPCも入り混じって、一緒に訓練している……そんな姿を見ると、何故だかとてもおぞましいです。私たちと彼らでは生まれからして違うというのに、それでも同じ存在のように扱っている。確かに、意思を持って行動していますし、あの奴隷の少女のように誰かに何かを与えることもできます。しかし、それは明確に区別されているから成り立つものです。人だから、生きているからとかそういう前提の話ではありません。……簡単に見切りをつける癖に。
……傲慢……そして無知ですね。どうして、人と同じ姿をしているだけなのに、そうして接するのでしょうか。
気づかないんですかね? それはモンスターに使われている人工知能とあまり差がないことに。
ゴブリンや、狼と接していて気が付きました。彼らには個体差が存在します。考え、行動して、そして実行する。単純なプロセスですし、NPCと比べれば劣ってはいますが……明確に違うとは言えません。
NPCを人として扱う……それはきっと、残酷なんですよ。私としては、個人として見てあげることが大切だと、そう思いますがね。だから私はとことん、奴隷の少女を贔屓するつもりです。
――まあ、これは個人的な意見ですし、言っても仕方ないことですね。あれも一つの〝価値〟の付け方だと思えば、それで構いません。それより、有象無象のことなんてよりも少女のために強くならないといけませんね。
明らかに、教官という雰囲気のNPCに声をかけるために近寄ります。
◆◇◆
はい。無事にスキルの獲得は終了しました。驚くくらい、何もなかったです。ただ職業の確認と、獲得できるスキルを教えられて(職業によって、得られるスキルには差があるみたいです)、実演して練習……というじみーなことを繰り返していただけです。これが、そのステータスになります。
ステータス
名前:ロスト
種族:人間
職業:『無垢な勇者 Lv.3』
スキル:《徒手空拳》《殺人術》《モンスター学》《隠密》《疾走》《下級剣術》《気配察知》《身体操作》《マナ操作》
称号:『勇者?』『無垢なる殺人者』『モンスター博士』『武芸者』
訓練場以外でも入手したスキルがあるみたいで、《モンスター学》――なんでも、モンスター限定でその構造がぼんやりと分かるスキルみたいです。《身体操作》は身体の動きを補助してくれたり、《マナ操作》は魔法を使う上で、必要なスキルらしく魔法使いの素質がある証拠だそうです。
その他のスキルは名称通りです。そして、この中で一番うれしいスキルが……モンスター学ですね。人相手にしか通用しない私の攻撃があの狼の構造を理解することによってどう変わるのか……すごく気になって仕方ありません。
それは、また今度にするとして。次は、件のアイテム探しですね。
まったく目星はついていませんが、昨日ログアウトしたあとに軽く調べてみた『職業補正』とやらを使ってみたいと思います。
なので……適当にふらふらしてみるとしましょう。
勇者はどんなスキルにも適正がある。ただ獲得できるかは本人次第。