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4.狼は吠える、少女は悟る。

 

「わ、わたし……は、あなたの言うことを……聞きます……ですから、助けてください……!」


 悩む間もなく、その少女は私の手を取ることを選んだようです。……あとは狼が戻る前にここから離れるだけ。そのはずでしたが、風が吹いて……ふとそこに目を向けると、何かが横切りました。


「……?」


 気のせいかと断ずることもできますが……明らかに高レベルな狼のモンスターが初心者エリアにいることに違和感を覚え始めます。

 狼は……操られていたのでは。私は不思議とそう確信しています。


 そしてその時、ソレは唐突にその場に現れました。


「あら? 狼ちゃんはどこに行ったのかしら」


「――一体、どこから……あなたは」


「んー? あら、プレイヤーがここにいるのは珍しいわね。おまけに初心者だし」


 じろじろと無遠慮に私を見つめてくるプレイヤー。魔女風の装備に身を包み、どれもが強力そうな雰囲気を漂わせています。

 名前は分かりませんので、仮にですが〝魔女〟と呼びましょう。


「……ま、いいわ。その子ちょうだい。今やっている【クエスト】に必要なのよ」


「……残念ですね。私も【クエスト】です」


「へぇ……それは変ね」


 ドッ――と空気が重たくなったと錯覚してしまうほど、相手の表情に変化が生じます。


「狼ちゃんは……あなたが撃退したわけではなさそうね。たぶん他の人を追っていったのでしょうね。まあ、初めから期待はしてなかったからいいけどね」


「それで……この子をどうするおつもりで?」


「当然。奪うわ」


「きゃっ――」


 いつの間にか、背後に庇っていた少女が小脇に抱えられます。

 私はそれに反射で手刀を叩き込みますが、空振り。そして先程にいた場所に戻っています。

 スキルなのか。それとも何かの装備なのか……いずれにせよ、高レベルなプレイヤーなことに変わりはないですね。


「さて、目的は達成したし……せっかくだから実験も兼ねてあなたと手合わせしてみるのもありね――狼ちゃん」


「グルゥ……!」


「いつの間に……」


 彼女が大きな杖を一振りすれば、背後には件の狼が。そして、牙を向けてこちらに威嚇してくる。

 どうやら、あの〝杖〟……不思議な力があるみたいですね。あれだけ、あからさまに使われればそう思うのは必然です。先程から起こっている瞬間移動……察するに、空間を一瞬で移動する能力が付いているのでしょうか?


「その狼ちゃんはね、とあるクエストのボスモンスター。中堅プレイヤーでも苦戦するレベルなんだけど……あなたは対処どう対処するのかしら?」


「くっ……」


 背後からの噛みつきを、右に転がることで回避し、難を逃れます。避けることはできましたが、その軌道は見ることが敵いません。それだけ速度の差があるということでしょう。

 何より発せられる威圧感が違いすぎます。


「これは……私の適う相手ではありませんね」


 そう断言するほど、格の違いを察せられます。即座に逃げ出そうと構えてしまいますが……あの魔女に抱えられている奴隷の少女が視界に映ってしまいます。


「……」


 逃げ出すわけにはいきません。

 でなければ、手を出した意味がありません。【クエスト】の失敗は、私にとって重要ではありませんが……一度やると自分で決めたことならば、やり通すのが筋というものでしょう。


「んー……これじゃ不利すぎるし、とりあえず武器だけでもあげましょうかね?」


「……感謝はしませんよ」


 私の目の前に、大きな剣が突き立てられます。全身が黒く、それ以外の色が存在しない、そんな剣ですが……シンプルな造形で非常に好みですね。

 それを手に取ってみれば、見た目に反して意外と重たくはないです。片手でも両手でも扱える、ちょうどいい重さ。

 完全に下に見られて、舐められているのは甘んじて受け止めるとしましょう。


「さて……では!」


 手に持った黒い大剣を投げつけると、距離を摘め手刀で首をまっすぐに狙います。スキルに《徒手空拳》があるため下手に慣れない武器を使って攻撃するよりは有効なはず……でしたが。


「グルァ!」


「……っ!」


 避けるまでもない、と無傷で受け止められてしまい愕然とする私を蹴り倒します。


「クハ――ッ」


 肺の空気を全て吐き出されてしまい、硬直したところを畳みかけるように前足で押さえつけると、地面に亀裂が走り意識が遠のいていく。

 巨大な体躯から発せられる重圧に、耐えることができない私の身体(低レベルのステータス)


「っぐ……ごほっ」


 血だまりを吐き出しながら、狼の前足を殴りつけたりしていますが……まったく効いている様子はなく、平然と踏み潰しています。

 チュートリアルやゴブリン相手と比べるのもどうかと思いますが、あの時は素手でも剣のように切れました……なのでこの狼にも多少なりとも傷つけられると思っていました。攻撃が全く通らないのは想定外です。

 ……いえ、今にして思えばただの手刀で首を切断できたのもおかしいですね。リアルさを追求しているこのゲームでそれをあっさりと出来るのは、不自然です。


「そう、いえば……私のスキルは、《徒手空拳》と……《殺人術》……」


 ゴブリンにも効いたことから、《殺人術》は人型限定で発動するスキルということでしょう。


 つまり、この狼相手ではまったく意味の為さない。他にまともな攻撃手段を持たない私では、こいつに勝てない……のでしょうか?

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