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3.奴隷と……

うーん、ロストちゃんは別に殺人が楽しいってわけではなくて、〝命令〟とか〝シナリオ〟っていう不可避のものなら躊躇なく殺せるってだけ。

それと知識欲だけは豊富なの。

あ、でも初めての感触で楽しいってのはあるかも

「……迷いました」


 森を彷徨いながら、私はポツリとそう呟きます。草原を越えた先にあったのは霧の濃い、深い森の中でした。

 それまでにゴブリンとしか戦っていなかった私にとって、ようやく訪れた変化だったので、道を逸れてることに気づかず探検していたら、こんなことになってしまいました。

 視界も悪く、時折呻き声のようなものまで聞こえてくるなで気味が悪いです。


「元の場所に戻ろうにも、来た道が分からないのではどうしようもないですね」


 つい先程気づいたことですが、私は戦闘に関しては問題ありませんが……いかんせん細かい部分の粗が目立って、損をしている気がします。

 補佐役――今の私にはそれが必要ですね。


「……誰か他のプレイヤー……できれば同性だとやりやすいのですが、現実は非情ですからね」


 初めてのコミュニケーションでやらかきてしまったばかりなので、自信がないです。

 自嘲気味に鼻で笑ってみますが、虚しくなる一方で、すぐにやめました。


「暇ですねー……」


 最初は初めての森で、はしゃいでいましたが……景色に変化が足りないので飽きてしまいました。これならまだあの緑色のモンスターと戦っているほうが楽しめたかもしれないです。な


 そんなことを思っていたその時でした。耳を貫くような、鋭い轟音が辺りに響いたのは。



「グルゥオオオオ――!」



 狼、でしょうか? そんな感じがします。

 恐らく狼のものであろうその遠吠えと共に、金属同士で撃ち合う音が響いてきたのは。

 その音を頼りに自然と私の足は動き始めます。何か、そこに行かなければいけないような気がして……全力で走り抜けます。

 ゲームなので呼吸が苦しくなることはありません――なんてことはなく、疲労が重さとなって体を襲い始めます。

 目に見えないスタミナの概念があるのか……わからない分、厄介ですね。


「はぁ、はぁ……ゲームの、中でも……疲れるん……ですね……」


 あともう少しというところで、完全にバテてしまいました。先程より音が近づいているというのに、少しだけ休憩です。近くに来れば、奮闘していることが音を伝って私に届けてくるので、少しくらい休んだっていいでしょう。





 さて、そんな冗談は置いといて……この状況を簡潔に説明するとしたら、そうですね。


「……奴隷商がモンスターに襲われて、護衛もやられて全滅寸前という感じでしょうか」


 馬車が転倒し、3人ほどが巨大な狼に立ち向かっています。その背後には、でっぷりと太ってやたらとキラキラした服を身に付けている男性が怯えて腰を抜かしています。

 そして、馬車からちらりと見えるのは……首輪をはめられた様々な人たち。


「……っ! た、助けてくれ!」


「え、いやです。だってそのモンスター強そうじゃないですか」


「は、はぁっ!?」


 戦闘しているNPCが私に気付いて、そう声をかけてきますが……相手にしている狼のモンスターは明らかにレベルが高そうで、おまけに不思議な靄まで纏っています。

 初めて数時間の初心者が立ち向かう相手ではないでしょう。別に人助け……この場合はNPC助けですけど、したいわけでもないですし。


「ちっ。――おい! 奴隷を囮にして、撤退するぞ!」


「お、おい! 勝手なことを言うな! 大事な商品なんだぞ!」


「うるせぇ!! そんなこと知るか! 死んでたまるかってんだ!」


「…………くそっ!」



「きゃっ!」



 すると、ぼろ布をまとった幼い少女を馬車から引っ張り出してきて、狼の前まで突き飛ばします。「あっ……」と突き飛ばした商人や護衛たちに手を伸ばしますが、彼らは歪んだ笑顔を浮かべて、必死に逃げ出しました。

 承認は馬車に取り残された他の奴隷たちも一緒に連れていき、少女は同じ境遇であった同類にすら見放された。


「……ひっ」


「グルゥ……」


「た、助け――」


【シークレットクエスト:少女、、待ち人来たり 発生! ピンチの奴隷の少女を助け、守ろう!】


「――仕方ないですね」


 私は手ごろな小石を拾うと、少女を見捨てて逃げ出した奴らの方向から狼に向かって投げます。

 そのことに眼光を鋭くした狼は、大きく吠えるとそちらへ向かって行きました。


――ギャアアアア!!!


 何やら悲鳴のようなものが聞こえてきますが、それは知らんぷりして、少女のほうへと歩み寄ります。


「あ、あの……」


「……」


 泥だらけで、薄汚い。やせ細っていて、折れてしまいそうな体付きです。これでは見捨てられても仕方ないなと思わず納得してしまいました。正直、こうして目を合わせなければ見向きもしなかったと思います。

 しかし、クエスト――命令が発生してしまえば、それは私にとって守るべき対象になってしまいました。


「……もう、安心してください」


「え……ひぅっ」


「これからは、私の……小間使いです。なので、守ってあげましょう」


 そうですね。ちょうど、補佐をしてくれる誰かが欲しかったところなんですよね。クエストはこの子の護衛ですし、ただで助けるのも癪なので助けた分は働いて返してもらいましょう。


「こ、こま、づかい……?」


「ええ、そうです。私の言うことを聞いて、その通りに動くだけの簡単な役目です」


「……それ……って、奴隷と、何が違うの……?」


 少女の疑問は最もでしょうけど、それを説明するのは面倒ですね。正直やらせようと思っていることは奴隷と何ら違いありませんし。というか、この子見た目8歳の割に呑み込みが早いですね。


「……そんな細かいこと、気にしている場合ですか? 貴女はこれから、1人で生きていくことになるんでよ? 今まさに食べられそうになっていた貴女がこの森の中で生きていけるとでも?」


「ひっ……1人はいやぁ……」


「でしょう? では、私の手を取るしかないんですよ」


「な、なんでもしますっ! だ、だから、捨てないでぇ……」


 ですが、所詮子どもですね。こうして恐怖を煽ってやれば、それに駆られて頼れる人に縋ってしまうものです。ぼろぼろと泣き崩れて、必死に懇願するその仕草はまるで〝奴隷〟そのものですね。


「ええ。ですから、小間使い(私の奴隷)になれば助けてあげますよ? それなりに働いてくれれば、衣食住の提供は怠らないつもりです」


幼子になって非道なことを……

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