2.嫌われてる
◆◇◆
街へと降り立つと、周囲には人で溢れかえっており行き交っていた。その余りの多さに圧倒されていると、そのほとんどがプレイヤーであることに気づきました。
つまり、ここはいわゆる『始まりの街』な場所で、チュートリアルを終えるとここにくるんでしょう。
「っと、いけませんね。ここでじっとしているのも」
街噴水広場みたいですが……やたらと広いですね。どこに行けばいいかも分からないですし。ああ、こういうときにチュートリアルNPCがいると楽みたいですけど……周りのNPCからはなにやら剣呑な目をされてます。
……心当たりがないかと言えば、ありますけど……どうやって知ったんでしょう? NPCだけに存在する、秘匿数値があるとか、もしくは〝殺人〟に対して目印がある……などと考えても仕方ないので、普通に話しかけてみましょう。
「…………」
「あのー」
「…………」
「お話してもよろしいでしょうか?」
「……なんでしょう」
とりあえず近くにいた衛兵(風な人)に話しかけてみました。
メチャクチャ嫌そうな顔されてますけど、本当にどうしてなのでしょうか?
「実はですね、〝この地に降り立った〟ばかりでして……右も左も分からないんですよ」
「ああ……〝異邦人〟の方ですか。分かりました。私が案内させていただきます」
「はい、よろしくお願いします」
……よし、【クエスト:街の人に案内してもらおう】の発生ですね。〝異邦人〟――つまり、プレイヤーのことですけど、こうして現地の人に説明することで世界のこととか、街の仕組みを教えて貰えるんですよ。
「この街は、多くの異邦人が集まる場所であり、同時に対して発展もない街となっています。それは、初めての方に優しくがコンセプトですからね。……まあ、幅広く色んなものがありますので異邦人の方々はよくここに戻ってくることも多いですよ」
「……なるほど」
これは、完全に嫌われていますね。長々と付き合う気は無いと、長文で一気に説明されてしまいました。
名前とか自己紹介もしてくれませんし……まあ、仮にでも案内してくれる方が親切と捉えるべきなんでしょうが。私なら嫌いな相手には、話もしたくないですし。
「あちらの建物は?」
「……ギルドです。とりあえずここで、狩人として登録しておけば金銭に困ることはないと思われます。大抵の〝異邦人〟の方々は案内が終われば、ここに向かいますね」
「……おや?」
【クエスト:街の人に案内してもらおう達成】
え、早い。
「では、これにて。仕事もありますので……」
「あ、ちょ……」
行ってしまわれました。
◆◇◆
あの後、ギルドに入ろうとしたのですが……受付の方に怯えられ、周囲の人からのバッシング……さらには衛兵まで呼ばれてしまい、大変なことになってしまったので、街の外まで逃げ込むことにしました。
「はぁ……なぜだか、事が上手く運びませんね。何故でしょう?」
街の外は、いいですね。広大な草原で、照りつける太陽の陽射しが心地よいです。騒ぎ立てる人もいませんし、なんだが面倒なのでこのまま次の街まで進んでしまいましょうか。
……街でお買い物とか食事とかしてみたかったんですけどね。それはまた次の機会と致しましょう。
私はこれくらいのことでは挫けませんよ!
「ギャギャ!」
「おや?」
行く手を塞ぐ不思議な生き物が現れました。緑色の小さな体躯……人間とは思えない耳の形や、不自然に長い爪。もしや、これもNPCなのでしょうか。街道から離れているとはいえ、道を遮るのは良くないことです。
人の道は邪魔をしてはいけません。
人語が通じるか分かりませんけど、とりあえず通して貰えるように説得してみましょう。
「いいですか? そうやって人に対して嫌なことをしていると――」
「グゲッ!」
「――と、このように攻撃されてしまうんですよ?」
話を遮って手に持っている棍棒で頭を狙ってきたので、こちらも同じように眼球を突き刺し、視界を潰します。
というか、あれですね。よく見たら表示がNPCではなく……適性を示すモンスターでした。
「グェエエ!!」
「ふっ!」
「――!?」
怒り狂ってやたらと振り回しますが、距離を取ればなんてことはなく、がら空きの脇腹へと回し蹴りを入れれば吹き飛んでいきました。
ポキポキと折れる音がしたので、おそらく肋骨が折れたのでしょう。肺に刺さってるとよいのですが……
【モンスターを討伐しました! 経験値を入手します!】
「……あぁ、今ので終わりですか」
今の一撃で沈んでしまったようですね。弱いモンスターなのでしょうか? にしても、これはゲームなのに随分と人体の構造とかが造り込まれていますね。眼球を潰したときの柔らかい感触とか、骨を折る心地がかなり実感できます。やったことないですけど。
「ギャ、ギャギャーー!!」
「おや、お仲間ですか。丁度いいですね。試してみたいことがまだあったんですよ」
どこからか、仲間の死体に駆け寄って必死に揺さぶって涙を流す表情までやってくるとは……このゲームのモンスターは面白いですね。
まるで、生きている。生活しているように思わせる作りは嫌いじゃないですけど、それはそれ。これはこれです。モンスターとして生まれたなら、私みたいなプレイヤーと殺し合うシステムなのですから、さっさと戦闘態勢に入ってほしいですね。
「ゲグェー!」
「ようやくですか。では――まずは、手足を封じましょう」
数歩だけ距離を詰めると、そのまま足払い。肘や膝と言った関節を思い切り踏みつけて、動けないようにします。
肋骨も折れたのですから、関節もあって然るべきですよね。
「グェ!?」
「で、次に口の中を少々……おお、喉とか舌とかも見えますね。このような生き物は知らないですし……一から作り上げたということになるのでしょうか? ……いいですね」
口を無理やり開かせて、構造を把握きていきます。人間とは違う細長い舌に、ギザギザと尖った歯。形は人と似ていますけど随分と違っています。
本当なら、お腹とか開いてみたいですけど……刃物は持ち合わせていないんですよね。
「首をこう……えいっ」
喉仏に手をやって、押し潰すように力を込めれば「グェ」とカエルみたいな悲鳴がきこえてくる。あまりこういうことは思いたくはないですけど、少しだけ気持ち悪かったです。
死体は残るみたいですが、一定時間経てば自然消滅する仕組みらしく、何もしないで放っておけば素材も採れずに骨折り損な結果になってしまいます。
ですが、解体の心得もありませんし、刃物もないのでどうしようもありません。次の街に行ったら、そこらへんも気をつけましょう。
上手くいかない理由のヒント:このゲームはリアルさとファンタジーの統合を目的としているので――血がでる。
そして、モンスター相手に良識を説くロストちゃんかわいくない?