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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
3章 魔導砲編 上 「レントスの猛獣を手なづけろ!」
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22.1 地味な捜査はお嫌いですか? 上

「ふふ、これは事件ね。アルマス探偵団、出動よ」


「そうですね!ミーシャさん。ドットルト探偵団、いざ」


とつばのある帽子と、こげ茶色の長い外套を羽織い、虫メガネを片手にキメポーズをするミーシャ。そして、アテナも探偵衣装を身に纏い、伊達メガネとメモ帳を持っている。探偵団の名前は食い違っており、水面下で争いが繰り広げられているようだ。


魔導砲が壊されるという陰湿な事件を解決せんとするコミカル調な二人に、ショウは怒っていいのか、笑うべきなのかわからず、首をかしげたり、天井を診たりした。


「その衣装はどこから?」


「この衣服と道具はセシノさんから送ってもらったわ」


「二人分もか?」


「身体のサイズを測られたのは、こういうことだったんですね!」

ショウは心の中で、ミーシャのわがままに付き合ってもらって申し訳ないと思った。


(まあ、落ち込んだ雰囲気になるよりはましか)


ミーシャも壊された魔導砲の開発に携わっている。レントス工場長のように怒りを表したり、落ち込んだりしても不思議はないのだ。

ショウはまず、黒板に謎となる部分を書き始めた。


「さて、そろそろ作戦会議に移ろう。議題はもちろん壊された魔導砲についてだ」


・ 何故、魔導砲の存在を知っているのか?

・ 何故、魔導砲の有用性を知っているのか?

・ 犯行の動機は?

・ 犯行の手口は? 保管場所はいかにして特定した?


思いつく限り謎を書き出し、共有する。この全ての謎が繋がるわけではないが、とにもかくにも突破口を見つけたい。

ある程度状況を整理すると、ショウはチョークを置き


「まず、それぞれ報告を聞こう。まずミーシャから」


とミーシャに発言を促した。彼女は魔導師としての力と、ミステリー小説から得た知識を駆使して、壊れた魔導砲の捜査をしてくれたのだ。


「わかったわ。まず、壊れた魔導砲だけど、破壊の仕方からすべて力任せに壊されたものだということがわかったわ」


「力まかせ?」


「こう、とりあえず持てる所を持って引っ張ったんだと思う。破断はすべて設計上脆弱な個所から、そして破断面は素材の弱い部分よ」


「そんなこと、できるのでしょうか?」


アテナが聞いた。


「普通の人なら無理だ。だけど、魔力で肉体を強化すればできるかもしれない」


「だから犯人は技術者ではないと思うわ。レンチ一本で音を立てずに解体できるはずよ」


「となると、やっぱりクリノス傭兵集団の誰かでしょうか?」


 ショウは考える。

(魔導砲の開発が頓挫した場合、得をするのは誰か?)


 国の兵器開発が進めば、レントス以南にあるファルティス要塞に割く人員の数も少なくなる。すると、レントス国防兵がレントスに帰ってきて、クリノス傭兵集団の仕事が減る。

 クリノス傭兵集団の財務状況は良くはない。1つでも仕事を減らすわけにはいかない状況だなのだ。


(動機はある。レントス工場長の言っていた通り、やっぱり傭兵集団の誰かが壊したのかな。けれど……)


 ショウが気になっていたのは、クリノス傭兵集団の傭兵達が、魔導砲の「ま」の字も知らなかったことだ。彼ら彼女らは、バレない嘘をつけるような人たちではなさそうと思っている。

しかし、たまたま魔導砲を見つけ、機械は人の仕事を奪うと思考停止で決めつけて破壊活動を行うということもあり得はする。


「傭兵説が濃厚ね。って線かしら? ここの技術員と傭兵達ってすごく仲悪いし、兵器開発が進めば、傭兵の仕事が減っちゃうから」


その事を口に出したのはミーシャだった。どうやら、ショウと同じことを考えているようである。


「そうだったら大変ですね。お二方の仲が更に悪くなってしまいます」


「最悪、犯人が傭兵だったら、最悪公表せず魔物という事にしておく手も考えないといけませんかネ」


「真実の隠ぺいをするのですか? ダメですよ!」


「そうよ! 真実はいつも一つ!」


と、両手を腰に当て、ミーシャはびしっと人差し指を立てた。これには流石にカースも苦笑いを浮かべた。


「あっしには、これ以上工員方と傭兵方との溝を広げる事が深刻のように思えますがネ…どうですか?ダンナ ずっと考え込んで」


腕を組み、瞑目して考え込んでいるショウが、ゆっくりと目を開くと


「いや、傭兵達の気質的にどうもこんな陰湿な事をするとは考えにくいと思ってな」


と言った。


「傭兵連中は不満があるなら直接工場に乗り込んで拳と大声で解決しようとする。あんな陰湿な真似はしないと思う。やるんだったら、注目を集めてからやるんじゃないかと思うんだ……」


現に、傭兵の工員に対する暴力沙汰は数多く報告されている。技術者に暴力を振るうのは、長斧の戦士だけに限った話ではない。


「考えたくないけれど…もしかして技術院の自作自演?」


ミーシャが言った。


「ありえる、な」


工員の殆どは鍛冶仕事に従事し《肉体強化》の術は皆身に着けている。疲労はするが、魔導砲くらいの耐久力なら破壊は可能だった。


「魔物の仕業、の線はどうでしょうか?」


今度はアテナが手を挙げて言った。


「魔物がそんな知能あるの?」


「魔族ならば、可能でさネ」


「魔族ほどの魔力量なら、私たち魔導師が気づかない訳ないわ。隠ぺいマントは魔族の闇の魔力まで隠せるほど、そこまで高性能じゃない」


(いや、そうでもないんだよな)


ショウは心の中で密かに、魔物、魔族の線を濃くしていく。四魔神ポリュグラスとグールマスターの着込んでいた隠ぺいマントは、ミスターシャイチの魔導師だったガーネットの感知を妨げる程に高性能であったのだ。魔族側の技術力は計り知れず、人類を上回っているという説も、現実味を帯びてきているとショウは思った。


(だが、この事実を知っているのは当事者の俺とレイ、そしてミスターシャの一部の高官だけだ。それに、二体が現れたのは森、他の生命や魔物達にガーネットの感知が阻害された可能性もある。犯人が魔族だったとして、いったいどうやって魔導砲の存在を知った?)


ショウは考える。考えすぎると、いつも悪い方向に思考が言ってしまう。


(レイの命が、密かに狙われている?)


魔族らの有する闇に特攻効果を持つ光の魔力を持つ者は、速やかに殺さねばならぬ標的。ミスターシャの襲来や、砂の城を倒した事も加えれば、魔物側には確実にレイの存在がバレているであろうこの現状、暗殺の為に忍び込み、魔導砲をたまたま見つけて破壊した……


(だけど、その事を口に出してしまえばレントス中は大騒ぎになる)


証拠がもう少し集まるまでは、黙っていようとショウは思った。


「カース、レイの様子はどうだ?」


「アテナ嬢もつけて、あっしの仲間である間諜にも見張らせてやすが、つい先ほど議事堂にて遅い食事中だといってやしたぜ」


「わかった。アテナにまたしばらくメカバックをつかせておこうと思う。渡しておいてくれないか」


と、ショウは機械仕掛けの小盾をカースに手渡した。


「ダンナも随分とコイツを信頼してやすね」


「俺の戦闘力の9割を占めるからな。メカバック無しなら、俺は見習い騎士にも勝てないよ」


その後も、四人で議論を続けた。子供たちの悪戯、傭兵集団、技術員の自作自演、魔物、魔族、いろいろな可能性を話し合ってみたが、どうも決め手に欠け、仮説の域を出なかった。


「手がかりが足りないのよね……」


魔導砲以外には荒らされた様子はなく、後から入ったレントスの報告によれば闇の魔力の痕跡も見つからなかったという。


「わかった。みんな、ありがとう。会議は一旦これで終わりだ」


ショウは立ち上がった。


「できる事をやろう。カースは各々の情報網を使って情報収集を頼む。ミーシャは引き続き、駐在員としての仕事を続けてくれ」


「え~」


と、ミーシャは不機嫌な顔をして、頬を膨らませた。


「ミーシャは推理する役だよ。このチームの要だ」


「ま、まあ。そこまで頼られるのなら…受けてあげない事もないけれど?」


(ちょろいっすネ…)


(ちょろいな)


頼られて上機嫌になったミーシャは、ステップを踏んでささやかに喜びを表している。


「ダンナはどうするんですかい?」


「俺は力技担当だよ」


「力技?」


「現行犯逮捕、張り込みだ。目的が魔導砲製造の頓挫なら、造りなおせば、また壊そうとするものがやってくるはずだ。外装だけでも作って、噂を流しておびき寄せる。もししばらく待ってやってこなくても、それならそれで魔導砲製作を続けるさ」


どれだけ仮説を立てても、実際に現場を押さえなければどうにもならないのだ。


「苦労は自分で背負うってクチですかい。ヒュー」


ショウは腕をカースの肩に回し、不敵な笑みを浮かべる。


「何言ってるんだ。俺だって専品部の仕事はあるし、張り込みは24時間体制。カースとその仲間たちにも手伝ってもらう。それに暗視はカースにしかできん」


「げ」


カースは露骨に嫌な顔をしたが、彼はやってくれる、とショウはわかっていた。


次の日、ショウはレントス工場長と協力し、魔導砲を修理した。外面こそ魔導砲ではあるが、精度や組み立ても拙く壊そうと思えばすぐ壊せる突貫工事の修理。今後内部部分をゆっくり直しながら、「予備のパーツを使って魔導砲は簡単に治った」という噂をながし、「もう予備は無い」とも付け加え、犯人を待つ。この日から、魔導砲という新兵器が開発されているとレントスの民に知れ渡り、関心の一つとなった。




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