21 魔導砲② 魔導砲爆破事件
ミーシャの発案で、これまであてのない砂漠を蠢くだけだった魔導砲の開発に希望の活路が見えてきた。
砲弾に魔装回路を施すというアイデアによって、砲身には魔力供給のみを行う機構を施すだけで良く、設計に大幅な余裕が出て、砲の耐久を普通の方と近いレベルにまで引き上げる事ができた。
砲身の性能を確かめるため、クリノス達が持ち帰ってきてくれた上質な記憶木に属性効果を付与する魔装回路を施して耐久試験を行うはずであったのだが、まだ砲弾の回路生産設計が進んでおらず、ミーシャしか砲弾を造れない状態である。当然、砲弾をなん十個も作る作業など、ミーシャは喜んで行ってくれるはずもなかった。
ショウはその事は十分に承知しており、通常の砲弾で耐久試験を行うことを決定。
新たな試作機の試験が明日に控え、一同が胸に期待を膨らませていた時、困った事が起きた。
「耐久試験って今日だったっけ?」
ミーシャとショウの二人の目の前には、明日テストするはずだった試作機が、バラバラに壊されている。
「いや、明日だよ。こういうのは勘弁してほしいんだけどなぁ」
そう答えたショウは、肩を落とした。
「誰かに壊されちゃったってことよね?」
「そうだな、試験は延期だ。図面とかの設計図はあるからすぐに造りなおして……いや」
ショウは口に手を添えて考え始めた。そして何かに気が付いたように慌てた様子で、壊れたパーツを手に取る。
「先に原因を特定しよう、犯人を捕まえなければ、また造りなおしたとしてもまた壊されるだけだ」
「じゃあ、すぐに軍務卿に報告しましょう」
「いや、まだ事を大きくする必要はない。特に、レントス工場長に知られたら大変だ」
ガチャリ、と工具が落ちる音が鳴った。音の鳴る方へ二人は振り向くと、そこには今、まさに来てはいけない人物がそこにいた。
「……」
「……」
「………まじかよ」
と、ショウは愚痴をこぼし、自分の運の悪さとフラグ回収能力を呪うざるを得なかった。
レントス工場長の腰には多くの工具を取り付け、服も黒ずんでいる。
明日が魔導砲、しかも上手くいくと見込まれた試作機の評価だったので、仕事中だったにもかかわらず、様子を見に来てしまったのだろう。
レントス工場長は、無残に壊された魔導砲を見て、青筋を立て、身体が震えていた。ショウの設計を元に、大砲を実際に製作したのは彼であり、この試作型魔導砲は、我が子同然であった。
レントス工場長は地団太を踏むと、どこかへと走り去った。ショウは慌ててその後を追うも、レントス工場長の姿は見当たらなかった。
(一体どこへ?)
小柄ではあるが人通りも多くないので見つからない訳がない。裏路地に入ってしまったのであろうか。
(おそらく、レントス工場長は傭兵集団の所に行ったはず)
背中の機械仕掛けの小盾がぴょんと飛び出て、腰の十手魔刀取った。
《十手魔刀 三ノ手 手品腕》
人間の腕を模した半透明の白い腕が生え、ぐるぐるとショウの腰に巻き付く。機械仕掛けの小盾が上に上がると同時に、その腕が機械仕掛けの小盾を掴み、ゴムのロープで引っ張り上げるようにショウの身体を空中に引き上げ、建物の屋根に飛び乗った。
(工場長は…?)
ショウは上からレントス工場長の姿を探す。レントス民の視線が集まるが、気にしていられる状態ではなかった。
「あ、いた!」
ショウ達がいた小屋とは別の大通りで、民衆をかき分け走っている一人の老人の姿を見つけた。ショウはその近くへと飛び降り、十手魔刀と機械仕掛けの小盾をしまうと、レントス工場長を追いかける。
レントス工場長はクリノス傭兵集団が寝泊まりする宿舎に到着するや否や、とある一人を見つけると詰め寄り、その小さな体で果敢にも巨体の胸倉をつかんだ。
「お前じゃろ! ワシの魔導砲を壊したのは!」
「うわあ! なんだ!?」
詰めかかったのはあの長斧の戦士だった。以前、ショウ達工員過度な修理依頼をし、金を払わなかった横暴な傭兵の一人である。クリノスが仲裁―のような恐喝―に入ってからは、向こうでも相当怒られたのか、ショウに依頼を頼むことは無くなったものの、レントス技術員とは喧嘩騒ぎを起こし続けているようだった。
「お前かと聞いているんじゃ!」
「なんだぁ テメェ?」
理不尽な怒りに、長斧の戦士も怒りを抱いたのか、小柄なレントス工場長を引き離し、胸ぐらを掴み返すと軽々と持ち上げた。
「あ」
「あ」
殴ろうとした時に、長斧の戦士とショウの目が合う。正確には、ショウが背負っている機械仕掛けの小盾に視線が行っている。彼はは振り上げた拳をおさめ、代わりにレントス工場長を引き離すと。「どういうことだよ」と聞いた。
「魔導砲を壊したのはお前じゃろ! 前に小屋の前でウロチョロしていたのを見たぞ!」
「知らねえよそんなの、小屋にも行ってねぇよ。大体魔導砲ってなんだよ」
「知らないふりをしおって! どうぜ自分たちの商売敵だからって壊したに決まっとる!」
「証拠はどこにあるんだ」
「そんなものはない、じゃがどうせお前らじゃろう!」
ショウは狼狽した。レントス工場長は今、証拠も無しに人に疑いをかけているのだ。カースのようなプロではないが、長斧の戦士は今魔導砲の存在を知ったというような印象を受ける。
(まずい、レントス工場長は怒りに呑まれている)
長斧の戦士は不信の視線を大声で怒り狂うレントス工場長に向け、そしてその視線をショウにも向けた。
更に、この状況を眺めている他の傭兵達からも、レントス工場長への悪口や罵倒が聞こえてくる。
戦士と工員の溝はどんどん深まる一方、魔導砲が完成に向かおうとする最中、抱えていた別の問題という名前の植物が、ぐんぐんと成長し、花が咲こうとしていた。
「レントス工場長、証拠が無いのなら問い詰める事はできません、一旦引きましょう」
ショウはレントス工場長に耳打ちした。
「じゃ、じゃが…このままだと魔導砲開発ができなくなるぞ」
「わかっています。この件、預からせてください」
精神疲労でガンガンと鳴る頭に堪え、ショウはレントス工場長を引っ張り「失礼しました」と一礼すると、傭兵達の滞在施設を出た。




