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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
3章 魔導砲編 上 「レントスの猛獣を手なづけろ!」
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19 クリノスとミーシャ

「もうなんなのよ!」


私は、ショウと行くはずだったカフェで怒りに身を任せ、私は紅茶を一気に飲み干した。本来ならば淑女としてやってはいけないことだけれど、私は怒りで我を忘れていたわ。


原因はそう、ショウよ。

息抜きに仕事をするって何? 奴隷根性が過ぎるわよ。これが職人気質ってやつ?理解できないわ。

休みと言うのは労働をしないことなのよ。あれじゃあ全く息抜きにならないわ。

今度は、ショートケーキをまるまるフォークで刺し、一口で食べる。お父さんに見つかったら、こっぴどく叱られそう。


 けれど、ここなら大丈夫。ここは知る人ぞ知る隠れたカフェだから、人通りも無いし、淑女であることを忘れてのんびりできるわ。


「どうやら、お困りのようだね」


「ぶふっ」


背後から聞き覚えのある声がして、私は吹きかけた。

私はケーキを必死に呑み込んで、口をハンカチで拭き、ようやく声の方向に振り替える。


「プ、プーリー」


レントスの住民らしく。プーリーは麻の服を着ていた。温暖な気候なのに、長袖であるのは傷跡を隠すためでしょう。

お風呂場での出会いから、私たちは何度かレントスの町を一緒に巡り歩いていたけれど、ここのカフェはまだ訪れたことはないわね。もしかして、もう少し好感度を上げれば教えてもらえないってやつ?


「相席いいかな?」


「ええ、いいわよ」


クリノスは席に座り、紅茶を注文する。


「ここはレントスに長く住んでいる人しか知りえない隠れ家のようなカフェなんだ。よく見つけたね」


「プーリーもよくここにくるの?」


「いいや、ミーシャの姿を見かけたからね」


と、プーリーは笑ってみせた。その顔は、美青年のような趣があって、ちょっとどきっとしちゃったわ。


「新しい町に来た時は、こういうスポットを見つけるのが楽しみなのよ」


「他の国や町でも、こういうスポットを?」


「そうよ、この前行ったドットルト砂漠では、沼っていうもの凄いホットケーキが出てきてね」


それから私は、これまで訪れた国の”隠れた名店”を手のひらサイズのキャンバスに描いた絵を見せながら話をした。

プーリーは、その話を楽しそうに聞いてくれたので、私もつい嬉しくなっちゃって、話が弾んでしまった。


「うらやましい。私は職業上、遠出をすることがなくてな」


「木工職人……だったわよね」


「そうさ。木を切って様々なモノに加工して売る。家具とか、建築材とかが殆どかな。魔導師の杖も作ったこともあるよ。魔導師の杖も作ったこともあったよ。ここは山があるから、木には困らない。だから遠出をする必要はないんだ」


「魔導師の杖……」


「ああ、魔導師の力は魔力球が決めると思われがちだけど、実は魔力球を固定して魔力を流す杖も重要な要素なんだ。それに、デザインにバリエーションが出せるのも杖部分だよ。魔力球は、どうしても球になっちゃうからね」


デザインにバリエーション。確かにそうだわ。だって、私の杖は、この義手だものね。


「プーリーは、魔装具は知っている?」


もしかして、と思って私は聞いてみた。


「魔装具か、杖を作ったときに少しだけ見た事がある。魔力媒介に生糸を使っているんだろう?」


「そうよ。魔生糸を編んで、広葉樹みたいな魔力の流れを作るって言った方がわかりやすいかしら」


「なるほど……」とクリノスは頷く。もしかしたら、魔導砲のこと彼女に聞いてみようかしら? プーリーは木工職人、何か良いアドバイスを知っているかもしれない。


けれど、言っていいのかしら? 魔導砲はレントス工場で開発されているもの。レントス工場は軍需品を造っている工場だし、もしかしたら機密情報なのかしら?

ショウからは口外禁止って言われていないから言ってもいいかしら、それとも別の魔装具に変えてみて……

そうだわ……別のものに例えてみましょう。


「実は今、杖剣(じょうけん)を造っているの」


「杖剣? なぜ、そんな古代の武器を?」


杖剣じょうけんとはその名の通り片刃の剣に、木製の杖が装着されていたもの。近接戦闘も魔法攻撃による遠距離もできる優れモノの魔法剣よ。

けれど、プーリーが古代の武器と言っていたのように、それは古代の武器。今は廃れちゃっているわ。

廃れた理由は中途半端だったから、ってところかしら。

高位の魔導師は魔力珠が埋め込まれた魔法剣を使っているし、そうでない人たちは魔装回路が施された魔装具型魔法剣を使っているから、生産が面倒なこともあって消えちゃったの。


「どうしても欲しいって人がいるのよ」


「モノ好きな人だね」


「でね、剣を振っても壊れないような杖剣を頼むって言われているのよ。おかしな話よ、だって杖剣って杖が主体なのよ。魔法攻撃による遠距離攻撃で、近づかれちゃったときに剣を使うっていうことを想定して設計されているの。ブンブン振ってたら壊れちゃうのは当然なのよ。プーリー何かいい案はない?」


と、魔導砲を杖剣に置き換えて、金属と木材の接着問題について、木材マスターのプーリーに聞いてみた。


「なかなか興味深いことをしているんだね。レントスの専品部って」


その顔は嬉しそうにも見える。職人ってみんなこんな感じなのかしら?

プーリーは紅茶を一口飲むと、言った。


「私だったら、諦めるかな」


ここでプーリーの強烈な発案で、一歩前進……ってあれ? 諦めちゃうの?


「いくら堅木を用いようが、大砲の威力に堪えられることはできない。すぐダメになる。だから壊れてしまわない設計を諦めて、壊れる事を想定するかしかないと思う。幸い、木は育てる事ができるから」


「そうなのね……」


私はがっくりと肩を落とした。金属と木材では、硬さ、導魔性、導電性など、材質が違い過ぎるのね。

魔導砲の開発、時間とお金が無駄になる前に辞めておいたほうがいいのかしら。

プーリーさんに言われた通り「壊れる事を想定した設計」は杖剣ならできるだろうが、火薬を扱う魔導砲には適用できない。大砲が壊れる事は、爆発を意味する。それは、使用者の死に繋がるわ。


「大丈夫か?何か変なことを言ってしまっただろうか?」


「ううん、そんなことないわ。もう、壊れる事を考えて、予め着脱用の杖を沢山作っておくことで承諾してもらうわね」


「うん、それがいいだろう。杖は消耗品だ。矢のように考えてもいいだろう」


「そうね……あれ?」


(矢……?)


私の頭の中に、1つの疑問が芽生えた。


―そもそも何で、砲身の耐久問題で悩んでいるんだっけ?

ええっと……確か、魔導砲の開発のためよ。

私達の目標は、魔導砲の開発であって、金属と木材を組み合わせた砲身を造ることではないわ。飛びだした弾に、魔力が込められていればいいのよ。

壊れることを想定していいもの……砲弾。


あぁ……私たち、なんでこんな簡単なことを気づかなかったんでしょう。


「プーリー、ありがとう! あなたのお陰でつかめたわ。もういくわね」


いてもたってもいられなくなり、私は立ち上がると、金貨を1枚机の上に置いた。


「ミーシャ、お金、多すぎないだろうか」


「貴女の分もあるのよ!」

 と私は議事堂の方角へ向かう。こうやって大声を出して、走ったりするのも淑女として良くないんだっけ。

知らないわ。そんなこと。だって、こんなにも簡単で素晴らしいアイデアを思いついちゃったんだもの。早くしないと、ショウに先を越されそうね。


そうだわ、ショウを驚かせる良いコト、思いついちゃったわ。



 


それからしばらくして、魔導砲の試験がまた始まった。

ショウは量品部での労災問題の解決のための防具開発や、レイの《亡者の剣》のメンテナンス、専品部の魔装具技術者指導の最中、時間と知識をひねってひねり、脳細胞を総動員させ、新たな魔導砲の砲身を考え、製作した


彼の血の滲む努力は功を奏し、壊れるまでの発射数は最高記録を更新した。だが、その値は実用化には程遠い値である。


「あれ、ミーシャ何をしているんだ?」


砲を撃ち終えた後、コンクリートの安全エリアから頭を出し、魔導砲の様子を覗いてみると弾道観測をしていたはずのミーシャが魔導砲の近くに立っていた。何かを手で誘導していで、彼女の視線の先では、レントス国防兵たちが新たに大砲を1門持ってきている。


ショウの造った魔導砲は、既に弾を撃ち終えているので爆発する心配はない。

が、ミーシャが何をしようとしているかわからない。


「工場長、あれは一体?」


「さあ、ワシにもわからん。見た所、あれはレントスの砲兵のようじゃが……」


「どんな大砲か、わかりますか?」


ショウは工場長に双眼鏡を渡した。


「あれは、山超え砲じゃな。射角が高く、短射程の砲じゃ。自由に角度を変えることができる。ワシらが開発しているものより、ちと小型じゃな」


砲兵たちは、せっせせっせと砲撃の準備を始める。その間、ミーシャはこっちを向いて、微笑んだ、一体何をしようとしているのか、ショウにはわからなかった。


そして、山超え砲に弾を込め終えると、なんと、、レントスの砲が真上を向いたのである。

ショウは腰を抜かして驚いた。砲身を上に向けて撃てば、当然弾は大砲周辺に振ってくる。自殺行為だ。


「バカやろう!」


ショウがそう叫びながらコンクリート壁の安全エリアから飛び出したとき、ミーシャの大砲からドォンという轟音が鳴り響き、レントス砲兵たちはいっせいに駆け出して退避。  


しかし、ミーシャだけはその場を離れようとしない。

間に合わないと機械仕掛けの小盾をミーシャに向かって投げようとしたとき、ショウの動きが止まった。試射場にいたミーシャ以外の者たちが、ありえない光景を目にして度肝を抜かれたのだ。


なんと、撃ったはずの砲弾が。ミーシャの近くでゆっくり落ちていく。綿毛のようにふわりとしたゆっくりさではなかったが、人がよけるには十分な遅さであり、地面にポトリと落ちた。


「じゅ《重力操作》?」


「ふっふーん、どうかしら?」


「砲弾にある記憶木に、風魔法を込めたのか?」


「まあ、そういうことになるわね」


「ミーシャが込めたのか?」


「いいえ違うわ。私は一回も砲弾に触っていないわ」


彼女の言う通りである。発射までミーシャは、砲弾はおろか、大砲にすら触れていないのである。


「じゃあ、装填手が風魔法の魔導師だった?」


「いいえ、違うわよ」


大砲自体は現在レントス国防軍が使っているもので、長きに渡る運用でその耐久は折り紙つき。その大砲から発射される砲弾が、魔力を有している。

ショウが直面し、頭を悩ませ続けていた大きな壁を、ミーシャがいともたやすく打ち破ってみせたのだ。


「ミーシャ、もったいぶらないで教えてくれよ」


「そうね、答えはこれよ!」


とミーシャは指から魔生糸を出し、砲弾の中に通す。すると、砲弾は割れ、中から木材と、魔生糸が出てきた。


「そうか、そういうことだったのか……」


ようやくミーシャのトリックを理解したショウは、ぺたりと力が抜けるように座り込んだ。


「流石だな、ミーシャ、やっぱり君は天才だよ」


「私が思いついたってわけじゃないんだけどね。レントスに木工職人さんがいて、彼女からヒントを得たの」


とミーシャはほほをかいて、照れくさそうに笑った。


「一体どういうことじゃ?」


「工場長、あの砲弾自体が魔装具になっています」


「なんじゃと?」


「壊れてもいい砲弾に魔装回路を施して、砲弾に魔力を込めます。そしたら、撃つ直前に魔力を込めればいい。僕らは相当遠回りをしていたようです」


「な、なんと……」


レントス工場長もようやくミーシャがやったことを理解したようで、ショウと同じく力の抜けた顔をしてショウとお互いを見合った。


「ここの砲弾が、あのまま流用できるということか?」


「いえ、大砲はオリジナルで開発するべきでしょう。装填手が魔力を込めながら砲を装填するのは酷すぎますし、装填してから発射するまでに記憶木(メモリアルウッド)に込められた魔力が外に放魔(ほうま)していきます。撃つ直前まで魔力を注入できるような機構を作るのです。ただ魔力を流せればいいので、相当難易度は下がります。魔生糸だけでいいかもしれません」


「ほう、今までの開発も無駄にならんという訳じゃな」


「無駄にしたくない、といった方が正しいかもしれません。ハハハ。それと、弾の方もイチから設計しないといけませんね。これはミーシャしかつくれなさそうですから」


見た所、砲弾の中に組み込まれた回路は3次元的、ミーシャ固有の技術《三次元回路魔装技術》を用いて、記憶木を硬質系耐熱魔生糸で掘り進み製作したものだろう。


ミーシャだけが造れる砲弾であるならば、意味はない。レイの亡者の剣と違い、魔導砲の砲弾は多くの人が多く消費することを想定しているのだ。


「できるのか?」


「立体パズルを造るようなもので、もちろん二次元よりは難しいですが、やってみます」


解決の糸口は見えた。あとは、進むのみ。泥臭くやるのは、俺の領分だ。


「大量の魔力を込めるのならば、その分上質な記憶木が必要よ。これは余ってたのを貰ったものだけれど、量産化するならば、相当な量が必要だと思うわ」


「大量に必要、となると人手が必要になるな。」


「上質な記憶木なら、生えている場所は聞いたことがある。じゃが、少々遠くて、魔物もウヨウヨいる場所じゃ」


「クリノス傭兵集団に依頼しよう。レイとの距離もとれるし、多少のガス抜きにはなるはずだ」

問題を解決する手段は、いざ蓋を開けてみると、シンプルで労力がかからないものだったりする。後になって誰もが「初めからこの選択肢を取っておけばよかった」と、今までの苦労を公開するが。解決とは、そういうもの。その苦労が無ければ、得る事は無かった。


彼は破竹の勢いで仕事を進めた。タール軍務卿に魔導砲弾開発の承諾を取り付け、予算を取った。

人手については、量品部から回す事になった。ショウが労災対策に労力を費やしていたおかげで、休業者が減り、現場の士気があがり能率上昇。人手が余り初めていたからだ。


道筋が見えてからのショウは強い。



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